肆 足並み揃えて

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 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。漆黒の翼が青や緑に煌めいている。この美しい輝きを持つ神様に、俺が告げるべき文言は何だろう。翡翠の覡として、そのお目付け役の神として、俺達はどうあるべきなのか。  紫苑は俺の言葉をおとなしく待っている。 「もっと、お互いのことを見るようにしよう。そして、お互いに自分のことを話すようにしよう。言えないこともあるだろうけれど、言えることはお互いに伝えていこう。ちゃんと、足並み揃えて協力していかないと駄目だと思うんだ」  今のままでは、いつか二人纏めて倒れてしまう。同じ目標に向かって歩いているはずが、気が付けば別々の場所で力尽きている。そうなってからでは遅いのだ。  半分眠っている状態で組み立てた言葉は上手く伝わっただろうか。俺は紫苑の反応を窺う。  朝の日差しを翼一杯に受けている漆黒の神様は、じっと俺のことを見ていた。深く暗い瞳が周囲の景色ごと俺を吸い込まんとしているように感じられる。この目に見つめられるのは少し苦手だ。吸引対象にロックオンされれば、逃れることは難しい。  若干の居心地の悪さを感じつつも、俺は黙って紫苑に見つめられていた。経過した時間はほんの数秒だったのかもしれないが、何分も何十分も沈黙していたかのように感じられた。 「晃一さん」 「うん」 「そうですね、貴方の仰る通りです。では、以後そのようにしましょう」  随分あっさりと同意するのだな。人の子の意見など聞き入れぬ、神が人の子と足並みを揃えたいなど恐れ多い、などと言われる可能性も考えていたが杞憂だったようだ。  紫苑はにこにこと人畜無害そうな笑みを浮かべている。普段のこの男に神の威厳というものは存在していない。心配するだけ無駄だったのだろうか。とはいえ、相手は神様なのだから多少の敬意は払うべきである。  俺は「ありがとう」と感謝の意を神に告げ、ベッドから下りる。そして机の上に置いてあったチラシを手に取った。  チラシの内容は博物館の夏休み特別企画展示の案内である。コンビニの店内に積まれていたものを一枚取って来たのだ。ご自由にお持ちくださいとあったが、あまり枚数は減っていないようだった。 「何です?」 「博物館に行ってみようと思う」  チラシを渡すと、紫苑は興味深そうに文章やイラストに目を落とした。 「海に関する展示があるらしいから、何かヒントになるかもしれないと思って。何もなくても気分転換になるだろ」 「なるほど。私はあまりこのような場所へは行かないので、純粋に楽しみです」 「遊びに行くわけじゃないぞ」 「わ、わわ分かってますよ!」
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