肆 足並み揃えて

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 本当に分かっているのだろうか。分かってはいるのだろうが、博物館への好奇心が抑えられていない。これまでも食べ物や本に興味を示していたが、どうやら施設にも興味があるらしい。人間の作る物全般に関心があるのだろう。  きらきらと光る石を咥えてご満悦な様子のカラスの姿が頭に浮かんだ。紫苑にとっては、見るもの聞くもの、初めて触れるものは何だって光る石になり得るのだ。  夕立として平凡なカラスを演じてきた間にも様々な物に出会ってきたはずである。しかし、カラスの姿では出入りできない場所や見ることのできない物がある。翼を取り戻して、俺と行動するようになって、齢千年の神様にも新しい世界が開けたのだろうか。今を楽しんでくれているのなら、俺も尽力した甲斐があるというものである。  紫苑は抑えきれないわくわくを強引に押し込めながら、チラシに記されている日程を指差す。 「会期は夏休み一杯あるようですね」 「少し遠いから放課後に行くのは面倒だ。講習が全部終わってから、適当な日に余裕を持って出かけようと思うけど」 「私はいつでも構いませんよ」 「じゃあ、明日チサ様にも訊いてみよう」 「ところで晃一さん」 「ん」 「お時間は大丈夫ですか」 「お時間……。あっ」  悠長に紫苑と話し込んでいる場合ではなかった。今日も講習がある。  そろそろ起きなさいと言う母の声が階下から聞こえたのはその直後だった。
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