伍 彼女が見付けた光

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『俺はチサ様に何をしてやればいいんだろう。探していた「彼」がもう亡くなっているということは、彼女だって分かっているんだ』 「仮に再会できたとして、彼女はどうするつもりだったのでしょうね。これが貴方の骨ね……と言って喜ぶのだとしたら、少々不気味ですよね……」 『確かに』  紫苑の場合は翼を取り戻すことが目的だった。翼が戻れば、失ってしまった神としての力が戻るだろうから、と。では、チサの場合は? 「彼」を見付けて、その先に何があるのだろう。  とても大切だった「彼」が死んでいると分かっていながら、彼女は探し続けた。その理由があるはずだ。 『生きていると思い込んでいるんだと思っていた。けれど、分かっていたんだ、チサ様は。おまえならどうする?』 「私? 私ですか?」 『もしも。これはもしもの話だけど、おまえと仲のいい鳥達が姿を消してしまって、それから何十年経ってもおまえは探し続けるか?』  少し酷な質問だっただろうか。紫苑、もとい夕立は星影で出会った鳥達と随分仲がいい。もしもであっても、こんな話は振るべきではなかった。  やっぱり答えなくていい。そう打ち込もうとしたところで、考え込んでいた紫苑が口を開いた。 「探すと思います」 『探すのか』 「我々のように長い時を生きる者は、自分と異なる者と出会う度に、出会いと別れを幾度となく繰り返します。人も、動物も、場所も、どれも過ぎ去って行ってしまいます。夜空に咲く花火のように、葉の上に光る朝露のように、美しくも儚く散り行くのです。その中に特に光るものがあれば、きっと目を奪われてしまうでしょう。まだ行かないでくれと、手を伸ばすと思います。姿が見えなくなってしまったら、きっと、その軌跡を探すと思います」 『軌跡。つまり、生きていた痕跡、のような?』 「はい。例えばお墓とか、子孫とかですかね。人でなくても同様です。いなくなってしまっても、探しているうちにその人のいる場所に辿り着くかもしれません。そのまま何年も経ってしまっても、探し続けると思います。大切な人が確かにここで生きていたのだと、そう分かる痕跡を求めて」  これはあくまで紫苑の個神(こじん)的な意見である。チサの場合は違うかもしれない。展示を見終えて戻って来たら、改めて彼女と話をしよう。  俺は携帯電話を畳んでショルダーバッグにしまう。 「この街は……」  待て、まだ何かあるのか。もう携帯電話はバッグの中だぞ。 「この街は、私にとっては眩しすぎます……」  紫苑は俺に顔を向け、困ったように整った顔を歪めた。
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