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『俺はチサ様に何をしてやればいいんだろう。探していた「彼」がもう亡くなっているということは、彼女だって分かっているんだ』
「仮に再会できたとして、彼女はどうするつもりだったのでしょうね。これが貴方の骨ね……と言って喜ぶのだとしたら、少々不気味ですよね……」
『確かに』
紫苑の場合は翼を取り戻すことが目的だった。翼が戻れば、失ってしまった神としての力が戻るだろうから、と。では、チサの場合は? 「彼」を見付けて、その先に何があるのだろう。
とても大切だった「彼」が死んでいると分かっていながら、彼女は探し続けた。その理由があるはずだ。
『生きていると思い込んでいるんだと思っていた。けれど、分かっていたんだ、チサ様は。おまえならどうする?』
「私? 私ですか?」
『もしも。これはもしもの話だけど、おまえと仲のいい鳥達が姿を消してしまって、それから何十年経ってもおまえは探し続けるか?』
少し酷な質問だっただろうか。紫苑、もとい夕立は星影で出会った鳥達と随分仲がいい。もしもであっても、こんな話は振るべきではなかった。
やっぱり答えなくていい。そう打ち込もうとしたところで、考え込んでいた紫苑が口を開いた。
「探すと思います」
『探すのか』
「我々のように長い時を生きる者は、自分と異なる者と出会う度に、出会いと別れを幾度となく繰り返します。人も、動物も、場所も、どれも過ぎ去って行ってしまいます。夜空に咲く花火のように、葉の上に光る朝露のように、美しくも儚く散り行くのです。その中に特に光るものがあれば、きっと目を奪われてしまうでしょう。まだ行かないでくれと、手を伸ばすと思います。姿が見えなくなってしまったら、きっと、その軌跡を探すと思います」
『軌跡。つまり、生きていた痕跡、のような?』
「はい。例えばお墓とか、子孫とかですかね。人でなくても同様です。いなくなってしまっても、探しているうちにその人のいる場所に辿り着くかもしれません。そのまま何年も経ってしまっても、探し続けると思います。大切な人が確かにここで生きていたのだと、そう分かる痕跡を求めて」
これはあくまで紫苑の個神的な意見である。チサの場合は違うかもしれない。展示を見終えて戻って来たら、改めて彼女と話をしよう。
俺は携帯電話を畳んでショルダーバッグにしまう。
「この街は……」
待て、まだ何かあるのか。もう携帯電話はバッグの中だぞ。
「この街は、私にとっては眩しすぎます……」
紫苑は俺に顔を向け、困ったように整った顔を歪めた。
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