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そろそろ帰りの汽車の時間ですよ、という紫苑の声に目を覚ます。体は非常に怠く、頭は重かった。
「朝日様、この度はお世話になりました。わたくし、彼を探しに行きます。彼の痕跡を見付けることだけでも十分なのに、家族のことも気にかけて下さってありがとうございました。いつか家族の血を引く者達とも出会えたらいいなと思います」
銀色の髪が潮風に揺れている。チサの耳にイヤリングは付いていなかった。身に纏っている服もワンピースではなく、紋様のあしらわれている羽織状のものだ。そして、玉や石の装飾品が衣服に散りばめられている。
おそらく、これが彼女の本来の姿。麗しい海の女神。レプンカムイの眷属。
「もう、行くのか」
「はい」
「元気でな、チサ様」
「朝日様も、どうかお元気で。晴鴉希命様も、素敵な時間を過ごせますように」
「ふふ、ありがとうございます。貴方の旅路に幸多からんことを」
チサは改めて感謝の意を述べてから、小さく手を振った。そして、踵を返して海へ駆け出す。波打ち際を駆け抜け、どんどん沖へ進んで行く。その後ろ姿が小さくなったかと思いきや、突然大きくなった。黒い流線型のボディが海面に現れたのだ。
シャチだ! と誰かが叫んだ。浜辺にいた人々の視線が集まる。目を凝らす者、カメラを構えようとする者、反応は人それぞれである。居合わせた人間達に己の存在を見せつけるように、シャチは大きく跳ねた。
「チサ様、嬉しそうですね」
「あれでよかったのかな」
「本神が満足しているのです。貴方は十分使命を果たしましたよ。お疲れ様でした、晃一さん」
大きな水飛沫を上げながら、シャチは海に姿を消した。姿が見えなくなってからも、楽しそうな歌がしばらく聞こえていた。
チサ様が無事に「彼」のいた場所に辿り着きますように。流れて来る旋律に重ねるように、俺は小さく祈りを捧げた。
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