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一 海の神謡
それはきっと、見えないけれどそこにいる。
目で見ることはできないけれど、きっと心のどこかで感じ取れているはずだ。そして俺達が感じているのと同じように、向こうも俺達を見守ってくれているんだ。
神様ってすごいよなぁ。
……って思ってないと、神職なんか俺には務められない!
見えないからと言って存在していないとは限らない、というのはよく聞く言葉である。神様とか妖怪とか幽霊とか。それらだけではなくて、もっと簡単なもの。子供でも分かるいい例はおそらくサンタクロースだろう。サンタさんは子供達に気が付かれることなくプレゼントを配って飛び回るハイスペックじいさんだ。遥か昔からいるはずなのに、そのじいさんがトナカイのソリで空を飛んでプレゼントを配る姿を見たことがある人はほとんどいない。
俺の家は神社だけれど、小学生の頃までは毎年クリスマスにはサンタさんがプレゼントを持って来てくれていた。
ある年の十二月、俺はサンタさんを捕獲する作戦を考えた。幼馴染み二人にも声をかけると、美幸は「わたしもやる!」とノリノリで賛同してくれたが、晃一は「非論理的で成功するとは思えない。そんな暇があるなら宿題をやれ」と言って俺の提案を突っぱねた。アイツはあの頃からかわいげがなくてガリ勉だった。
かくして俺と美幸はサンタさん捕獲作戦のために部屋に罠を仕掛け始めたのだが、作戦は残念ながら失敗してしまった。作業中の俺達に母が言ったのだ「こんなことをする子の所にはサンタさんは来てくれません」と。幼い俺の挑戦はそこで終わった。
なので俺はサンタさんを見たことがない。けれど、いてもいいんじゃないかと思っている。高校生になった今でも、だ。夢というものは持っておいた方がいい。ロマンである。
しかし、そんな俺でも存在を疑ってしまうものがある。
神様である。
宮司の息子、この暮影神社の跡取りとして、俺は神を祀らなければならない。
例えば、漫画や小説、ドラマ、映画。フィクションの世界において神様を見ることのできる神職が登場することは度々あるが、生憎暮影にそんな神職はいない。
サンタさんのことは信じているくせに、神様のことは信じていないのか。神社の子なのに。そう言われた時、きっと俺は言い返すことができないだろう。
いや、だってさ、サンタさんは枕元にプレゼントが置いてあるわけだろ? でも神様は何かしてくれたのかどうかって分からないじゃんか。見えないだけじゃなくて、いるって言える証拠がないんだよな。
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