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「このまま、オルキデア様に別れも告げられないまま、国に帰りたくなかった……。あんな、居場所のない国に……」
アリーシャは手を強く握りしめると、大きく肩を震わせていた。
そうして、オルキデアに抱きついたのだった。
「謀叛の疑いをかけられててもいい! 巻き込まれてもいい! 貴方と一緒に居られるのなら、私はどうなっても構わなかった……。
こんな、行き場のない愛を抱えたまま、居場所のないあの国で、一人で生きていかなければならないと、考えるくらいなら」
「アリーシャ……」
オルキデアの手が宙を彷徨う。
アリーシャを抱きしめていいのか迷っているようだった。
「……すまなかった」
やがて、オルキデアは呟くと、アリーシャをそっと抱きしめたのだった。
「すまなかった。お前の気持ちも考えないで」
「そうですよ。この想いは、もう止められないんです。
溢れて、溢れて、私の中から溢れて……。もう止められないんです……!」
やがて、子供のように声を上げて、胸の中で泣き出したアリーシャを、オルキデアはただただ抱きしめていたのだった。
(長かった。本当にここまで……)
そんな二人を眺めているクシャースラは、感慨深い気持ちになる。
数ヶ月前、戦地から帰還する途中で立ち寄った寄港先で、たまたまアリーシャを拾った。
自国に帰されたアリーシャだったが、オルキデアに会う為に、なんと屋敷を飛び出したらしい。
なにがなんでも、ペルフェクトのーーオルキデアの元に行きたいと訴えてきた時はーーそれも万全とは言えない体調で。
その熱意に、さすがのクシャースラも度肝を抜かされたものだった。
その後、アリーシャの体調が急変して、親友の代わりに落ち着くまで付き添おうと寄港先に残る事を決めた時、決意したものだ。
ーー必ず、親友の元にアリーシャを送り届けると。
そして今日、その決意は果たされた。
数多の困難を抜けて、二人は再会できた。
これ以上ない喜びと共に、クシャースラはようやく肩の荷が降りたような気がしたのだった。
音を立てないように二人から離れると、クシャースラはそっと部屋を出たのだった。
(今度こそ、幸せになれよ)
フッと笑みを溢すと、廊下の窓から外を眺める。
無二の親友・オルキデアと、その妻・アリーシャ。
二人が出会ってから、季節は変わり、二人も大きく変わっていた。
(さて、おれも行くとするか)
別室で待っている自分の愛する妻に会う為に、クシャースラは窓辺を離れると、屋敷の廊下を足早に歩いて行ったのだった。
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