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愛妻の帰還と新たな出会い
アリーシャと過ごした日々を追懐していたオルキデアだったが、腕の中で身動ぎした藤色に釣られて、意識が浮上してくる。
「ううっ……」
この一年間、愛する人がいない事実に目を向けたくなくて、思い出の中で生きていた。
自分で選んだこととはいえ、ずっと後悔し、嘆いていさえいたオルキデアの腕の中に、今、失ったと思っていた愛する人がいる。
一度だって忘れなかった温もりを感じ、藤色の髪からは甘い香りさえする。
幻でもなんでもないオルキデアの愛した女性は、今尚、オルキデアの腕の中で涙を流し続けていたのだった。
「ぐすっ……ふぇ……」
最初こそ、声を上げて泣いていたが、オルキデアが背中をさすっている内に、だんだん落ち着いてきたようだった。
今は嗚咽だけを漏らしていたのだった。
「アリーシャ……」
オルキデアが声を掛けると、アリーシャは聞いてるというように小さく頷く。
オルキデアにギュッとしがみついて、ただただアリーシャは涙を溢していたのだった。
「もう泣くな」
「だっでぇ……ようやぐ会えだのが、ゔれじぐでぇ……」
鼻を鳴らすアリーシャの頭を抱き寄せる。この懐かしい感じ、オルキデアは一度だって忘れなかった。
「何もお別れ出来なぐで……目が覚めたらシュタルグヘルドで……すぐに戻りだがったのに、戻れなぐで……」
「黙って帰してすまない。あの時はそれが最善だと思ったんだ」
ようやくアリーシャは落ち着いたのか、オルキデアから身体を離す。
一年振りに見た最愛の女性は、最後に見た時よりも、顔や身体が丸みを帯びて、女性らしさが増していた。
それでも、初めて会った国境沿いで会った時のように、若干、頬が痩け、胸が張っているように見えるのは、離れていた間の苦労の証だろうか。
オルキデアの視線に気づいたのか、アリーシャは小さく苦笑すると涙を拭いた。
「あまり擦るな。赤くなるぞ」
出会ったばかりの頃もそんな会話をしたと思いつつ、ポケットを漁るがハンカチは入っていなかった。
ありとあらゆるポケットを探し、周囲も見渡したが、ハンカチやタオル類が見当たらなかったので、とりあえず着ていたシャツの袖で拭いてやる。
痛そうに顔をしかめていたアリーシャだったが、顔を上げると何かに気づいたように瞬きを繰り返す。
袖を引っ込めると、オルキデアの肩に手を掛けながら、ダークブラウンの髪に触れてきたのだった。
「髪、切ったんですね」
アリーシャと別れた直後に切った髪は、わずかばかりだが伸びていた。前髪は眉の下まで伸び、耳に掛かっていた。肩近くまで伸びるのはまだまだ先だが、それも時間の問題だろう。
愛おしむように撫でてくるアリーシャに、こそばゆい気持ちになる。
「気分を変えたくてな……あまり意味は無かったが」
「さらさらで綺麗だったのに……ちょっと勿体ないです」
「髪なんてまたすぐ伸びるさ。そう言うお前は以前より痩せたか? 前よりも細い気がするな。……シュタルクヘルト家で満足に食べさせてもらえなかったのか?」
「それは……まあ……」
何か言いづらそうに、アリーシャは俯く。やはり、相当苦労したのだろうか。
そんなアリーシャに罪悪感を抱きながらも、柔肌の両頬に手を添える。
愛妻の頬を包むと、そっと顔を覗き込む。
「以前に比べて、女性らしい顔つきや身体つきにはなったが、頬も痩けたのか……? 体調はもう大丈夫なのか? あの時、具合が悪そうにしていただろう?」
「あの、オルキデア様」
何かを決意したのか、アリーシャは顔を上げる。
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