探偵稼業は楽じゃない

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 新宿の雑居ビルにある探偵事務所に林田沙也は入った。沙也はショートボブの髪型をしていて体形は中肉中背、色が白くて目が大きい美人だ。今日は三月の半ばなので紺色のダッフルコートを着て来た。下は小花柄のワンピースで春を意識している。外に伊藤探偵事務所と看板の掛けてあるここは、タバコの匂いが鼻について、淹れたてなんだろう、コーヒーの香ばしい香りが部屋中に漂っていた。髪を緩やかにパーマをかけている伊藤信人は四人掛けのソファーに沙也を座らせた。一週間、沙也の夫をつけた結果の話をしなければいけないと信人は茶色い封筒をテーブルに置いた。でも沙也をリラックスさせる必要がある。信人は口角をあげて訊いた。 「飲み物は何がいいですか?」 「あ、じゃあ、コーヒーください」  沙也はそう言うと緊張した顔を信人に向けた。 「今日は暖かいでしょう」 「はい、もう春ですね。ここに来るまで電車の中から梅の花が見えて、とても綺麗でした」
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