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薄暗い個室で、男は目を覚ました。
瞬きを繰り返し、視界を安定させる。
「…此処は…」
「あっ…カスール兄さん!目が覚めたのね…良かった」
「ハル…?」
男の新緑色の瞳にはまだあどけなさが残る少女が映った。
「あっ、寝ぼけてる。此処は私達の家よ」
「家…?」
「そうよ、村の孤児院。兄さんが運ばれて来たときは本当に驚いたんだから!」
「運ばれて…お、俺を運んでくれた奴は?」
身体を起こそうとするが、上手く力が入らない。
「待ってて、呼んでくるから」
「……」
無理に起き上がる事を諦め、ベッドに背中を預けた。
(…俺、どうなったんだ…?確か、あの時…)
カスールは目を閉じて思い起こす。
「魔物に、首辺りに噛みつかれて…」
手で傷があるだろう箇所に触れてみる。
「傷がない…!?確かに噛みつかれたはずだってのに…」
驚愕の事実を語った独り言は、あっさりと拾われた。
微かに聞き覚えのある声。
「…驚くのも無理はないわ。普通なら死んでいても可笑しくない傷だったもの」
「だ、誰だ!」
開いたままドアから、女が入ってくる。
二つに結った茶色の髪が揺れる。
「…命の恩人に対する態度とは思えないわね」
「命の恩人…?」
「そうよ。貴方が今こうして会話出来るのも私のおかげ」
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