小説、はじめました

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 それから次の一週間はケータイを開くのが楽しかった。初めての読者、初めてのスター。ナミちゃんの千人に比べるとお粗末で、たった数人という数字にびっくりだったけど、でも、それでも読んでくれる人がいるってすごい。どこに住んでるどんな人だろう。読んでくれて、どう思ったのかな。  続けて週末ごとに一作書いて、三作たまり、だいぶサイトの様子がわかってきたころに、今まで気にしてなかったタグボタンが気になってきた。「公式コンテスト」だ。  その投稿サイトにはいくつもコンテストがあったけど、一番シロウトにやさしそう、って感じられるものを選んだ。  ドキドキしながら応募した。  発表が*月下旬頃 というあいまいな表現だったので、中旬すぎたら仕事中席を立つたびにケータイ用ロッカーに寄ってチェックした。  結果発表されてるのを見つけた日、あわてて更衣室に入ってひとりでゆっくり見た。大賞…準大賞…入賞…優秀作品…。  あたしの作品名はなかった。  いやいや、初めてのコンテストで入賞とか、そんなわけないでしょ。うぬぼれにもほどがある、と自分に言う。  入選されてる作品をいくつか読んだけど、みんなしっかりしてる。扉絵もちゃんと作ってる人が多い。タイトルも考えられている。 まあ才能のある人ならパパッと書いて入選とかあるかもしれないけど。  思い付きのような自分の作品が、いきなり入るわけないじゃん、とか言い聞かせながら、次のコンテスト用の小説を書いた。  投稿者向けの記事も読んだ。小説の基本から、実際に活躍されている人のインタビュー記事もいっきに読んだ。  なんだか、自分が小説家に続く列に入れてもらえた感じがして、うれしかった。未熟でも書いていいよって背中を押されている気がした。  ナミちゃんの小説は、pv二万、お気に入り登録二千を超えたらしい。  「でも、もうアイデアが尽きて来たんですよー。だから終わらせようと思ってます。他にやりたいこともあるし。」  あたしは心底うらやましかったけど、へーすごいねー才能あるんだねーとせいいっぱい感心した様子を見せて、ナミちゃんをほめたたえた。これが二次創作の力なのかナミちゃんの力なのか…まあ両方なんだろうけど、そんなにたくさんの人に楽しんでもらえるなんて、スゴイ。  ……そして、自分の小説のことは言えなかった。  あたしは六作目を書いて、四度目の投稿をした。そんなに小説読んでるわけじゃないからか、入賞作品と自分の作品にどのくらいギャップがあるのかさっぱりわからない。大賞作品は確かに面白いけど、じゃあ自分の作品をどうすればいいのかがわからない。でも書いた。  四度目のコンテストの結果は、今までより少し早い日にちにアップされていたようだ。バタバタした一日だったが、残業時間になってやっと余裕ができて、ケータイロッカーの前でチェックした。  「もう発表されてる…!」  あわてて女子トイレの個室に入って、再びそっとケータイを開いた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加