小説、はじめました

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 大賞…準大賞… このあたりに名前があるはずないと言い聞かせて、自分を落ち着かせながらスクロールする。佳作…特別賞… 名前はない。がっかりしながら続けてスクロールを続ける。  作品が立て続けに表示されてきた。優秀作品の欄だ。続けて募集概要が出てきた。そしてすぐ、ページの一番下に着いた。  目がじわってするのを感じた。涙だ。涙がぽろっと落ちた。  優秀作品だってこんなにたくさんあるのに。  そんな簡単に選ばれるわけないじゃん、って自分に言った。四回応募しても、一度も選ばれない。それが実力なんだよ。過大評価も過小評価もされていない。これが実力なんだ。  家に帰って、部屋のパソコンで改めて結果発表を見た。何度見ても自分の名前はどこかにありそうで……でもどこにもなかった。過去の結果発表も同じだった。  ひとりの部屋で、涙がぽろぽろ落ちてきた。  だってほら、国語すごくできたってわけでもなかったし。昔っから特別文章がうまかったわけじゃないし。  同期の子で、表現がすごくステキな子がいたな…。会社の退職者に送る色紙に気がきいたメッセージ書いてたり。結婚式の両親への手紙もよくって。あんな子だったらな。  作家って個性的で産みの苦しみですごく大変そうだけど、あたし平凡にだらだらしてるの好きだし。  そうだ、このご時世に定職あって実家暮らしで、彼氏はいないけど友達いるし。この平凡なぬるま湯生活につかって、苦労知らずで良かった~って思ってるでしょ。凡人が一番だって。  そうだよ。  もしかして、あたしの書いたもの面白いかもって、誰か読んで楽しんでくれないかなって想像するのは、まあいいとして。  もしかして、誰かあたしの才能を見いだしてくれないかなとか、誰かあたしのファンになってくれないかなって、妄想が広がってたでしょ。投稿した時。  でもほら、そんな魅力なかったんだよ。そんなのわかってるじゃん。きっと才能ある人って、ちょっと話しただけでわかるような人なんだよ。あたしそんなんじゃないでしょ。  現実をよーくみなよ。  人に認められるような人って一握りで、こんな程度のあたしはそん中には入れるわけないじゃんって。  わかってる そう思って。  そう思ってて。  でも。  涙が止まらない。  ほんとのほんとにそうだったとわかった時の悲しさ。  等身大の自分が、  ありのままの自分が、こんなに悲しいなんて。  でも、もう戻れない。  あたしは今日も、小説を書く。
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