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そんな中、姉はというと両親や母にくっついて、足しげく祖母宅を訪ねるようになっていた。祖母に対しては実の息子である父よりも、同じ女である姉の方が都合が良かったようだ。祖母にとっても、息子の嫁という本質的には他人でしかない母よりは、血の繋がった孫である姉の方に心を許していたらしい。
一方で僕は、避けていたわけではないけれど祖母の家には寄り付かなくなっていた。いや、避けていたのかもしれない。両親や姉を通じて祖母の奇行を時々耳にするだけで、近寄りがたいものを感じていた。少なくともそこに、僕が関わる理由を見出せなかった。
だから大学四年の三月に、卒業の報告に出向いた際も、正直あまり気が進まなかった。両親や姉に言われて、仕方なく足を運んだだけだった。
予想通り、姉がどんなに「徹だよ、私の弟。わかるでしょ。昔よく来ていたでしょ」と説明しても、僕を見る祖母の視線から警戒心が解かれる事はなかった。
「徹なんて男、知らん。そんな孫は、おらん」
祖母は僕に向かってそう言うのみだった。
言葉通り、祖母は赤の他人を見るような冷たい目つきで僕を睨んでいた。
僕が祖母に会ったのは、それが最後だ。
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