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いちじく
「なんだか終わってみると、あっという間ね」
告別式を終え、自宅に戻ってくると姉は大きなため息をついた。
両親は叔母夫婦と一緒に祖母宅に残っていた。参列した人々の名簿や香典金額の取りまとめ、香典だけ寄越した人や電報をくれた人に対するお礼の手配等々、葬儀の後片づけというのはまだまだ続くらしい。
「そりゃあそうでしょ。四十九日が終わるまではまだ仏様にもなっていないんだし」
「って事は来年のお盆が新盆になるのか」
「しばらくは法事が続くんだから、ちゃんと頭に入れときなさいよ。おばあちゃんの法事ぐらい、来ないと駄目だからね」
言われなくてもわかっている。むしろその辺りの付き合いについては姉よりも僕の方が詳しそうなものだけれど。昔からお姉さんぶりたい性格だからと放っておく事にした。
「あの家、どうするんだろう? あのままにはしておけないよね」
「ちらっと聞いた話だと、売りに出すつもりみたいよ。ただ建物はリフォームしても買い手を見つけるのは大変だろうから、できれば更地にした方が売りやすいんだろうけど。そんなお金もないから、とりあえず建物付きで買ってくれる不動産屋がないか探してみるとか話してた」
「そっか」
その昔、父や叔母が育ち、僕達が小さな頃は親戚が集まって賑わっていたあの家も、主がいなくなってしまえばこんなに呆気なく処分されてしまうのか。ましてや祖父母は愛着を持って暮らしていたであろう家が邪魔物扱いされるとあっては、無常さを感じずにはいられない。
祖母の人生は、一体どんなものだったのだろう。最後の最後まで子どもたちの手を煩わせ、死んだ後は生活してきた家すらも躊躇なく処分されてしまう一生。父と叔母という一男一女を残せたとはいえ、それ以外に何か彼女の生きた証のような物は遺せたのだろうか。
何よりも無念なのは、祖母自身に違いない。きっともっと人々の心や、目に見える形として死んだ後も生き続けるような人生を送りたかった事だろう。
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