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中絶の処置が終わった時。
夫となる人は、私の好物の 「握り寿司」を買って
病室で 待っていてくれたが
私は
「いつも、私が行く 寿司屋のものじゃない!」
握り寿司の包みを部屋の隅に投げつけていた。
包みから、はみ出して 転がり出た 鉄火巻を
見た時、小さな命が なくなってしまったと
わかって 初めて動揺して
声を出して、わぁわぁ 泣いたけど
涙が流れるどころか、ひとすじの涙も
出てこなくて
その、事実を突きつけられて
泣きたくても、涙が出ないと 身をもって知った時
初めて シェーグレン症候群の意味を理解した。
夫となった人は、私の中絶直後
精悍結紮術(パイプカット)をした。
夫の考えとしては、病気を代わってあげる事も
出来ないし、私だけ 痛い思いをさせた事への
償いの積もりとの、思いのようだ。
私は時々、産めなかった 子供の歳を数える。
34歳…。
きっと、いい男だったと 想像する。
今の私は、沢山の事を乗り越えて
もう、大概の事で 涙を流したりしない。
涙が流れる事もない。
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