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第一話:島田ヒロミ(女 20歳)
(2020年10月1日 13:00PM、東京 山手線外回り 3号車内)
昼過ぎの車内には数人の乗客しかいない。
白いワンピース姿で髪を綺麗に束ねた島田ヒロミが、
スマートフォン(スマホ)を見ながら座っている。
スマホにメッセージが表示される。
メッセージ「アプリのインストールが完了しました!」
ヒロミ「ん?アプリ?」
メッセージ「アプリを開きますか?」
ヒロミ「ダウンロードなんてしてないのに・・」
ヒロミは手にしたスマホ画面をチェックすると、
画面に【個人検索アプリ】という見たことがないアイコンが出ている。
ヒロミ「何のアプリかしら?」
ヒロミは興味本位でアプリをクリックする。
アプリの画面が開くと、チャットアプリ【2トーク】の画面が出ている。
ヒロミ「チャット?」
【2トーク】のタイムラインに、次々と会話が表示されて行く。
【2トーク: 少しリッチなパパ 】「だからさ~そんなに怒るなよ」
【2トーク:ゆうゆう】「パパが悪いんだからね!反省してる?!」
ヒロミ「これ、誰の会話なの?」
ヒロミは車内をチラリと見渡してみる。
正面に座っている40代のスーツ姿の男性が、
スマホを片手にパチパチとタイピングしている。
【2トーク:ゆうゆう】「もう連絡してこないで!」
【2トーク: 少しリッチなパパ 】「急な仕事だったんだから仕方ないだろう」
【2トーク:ゆうゆう】「じゃあね、バイバイ」
電車が渋谷駅に到着する。
ヒロミの正面に座っていた男性がスマホをカバンに入れながら降りていく。
ヒロミは下車した男性とスマホの画面を交互に見る。
【2トーク: 少しリッチなパパ 】「話を聞いてくれよ!」(未読)
チャット画面には「未読」のメッセージが残されたままだ。
ヒロミ「もしかして、このアプリ・・他人のチャットが読めるのかも・・」
(2020年10月1日 15:40PM、池袋にある私立大学のキャンパス内にあるカフェテリア)
大学の授業が終わったヒロミは、カフェラテを飲みながらスマホを触っている。
ヒロミ「・・何にも反応しない」
【個人検索アプリ】をタッチして起動させるが画面には何も映し出されない。
ヒロミ「あのチャットも消えちゃってるし、壊れちゃったのかしら?」
ケイコ「ヒロミ!何してるの?」
ヒロミ「あっ、ケイコ!」
ヒロミは慌ててスマホをテーブルに置く。
大学のクラスメイトで、おしゃべりで有名な立花ケイコ(20歳)だ。
少し派手な服装だが、異性を意識したかなり際どいミニスカートを履いている。
ケイコはヒロミの正面に座る。
ケイコ「ねえねえ、うまくいってる?」
ヒロミ「?」
ケイコ「彼氏とよ、決まってるじゃない」
ヒロミ「ああ、タケシね。まあまあかな・・」
ケイコ「まあまあって、あんなイケメンを捕まえておいて、素っ気ないね」
ヒロミ「ケイコはどうなのよ?」
ケイコ「彼氏を探すより、就職を決める方が先よ。あ、そうそう今度さあ
バイト先の店長から合コンやらないかって誘われていてね。
とりあえず女の子集めておいてくれって言われてんの」
ケイコは一方的に話し出す。
ヒロミは少々うんざりしながら、スマホを眺める。
ヒロミ「!」
さっきまで画面に何も映し出されていなかった【個人検索アプリ】画面に
【2トーク】画面が出ている。
チャット画面に出ている名前は2つ、「ケイ」と「スポーツマン」だ。
ケイコ「それでさぁ、あの店長がウザくて、どうしても女子大生と合コンしたいってうるさくて」
ケイコはひとりでしゃべっている。
ヒロミはケイコの話に相槌を打ちながらも、目はスマホの画面を見ている。
【2トーク】のチャット画面が動き出した。
【2トーク: スポーツマン 】「ケーちゃん、まだ学校? 今日も会えないかな?」
ヒロミはチャット画面に出た「スポーツマン」のアイコンを見る。
ヒロミ「あっ!」
ヒロミは思わず声を出してしまう。
ケイコ「ん?どうしたの? 」
ヒロミ「い、いや、別に・・・」
ケイコ「変なの。あ、ちょっとごめん。メッセきてる」
ケイコは自分のカバンからスマホを取り出し、ヒロミの目の前でパチパチとメッセージを打ち込んでいく。
ヒロミはスマホの画面を見る。
【2トーク】の画面が動いている。
【2トーク: ケイ 】「ごめ~ん。今まだ大学。バイト終わりなら会えるよ」
【2トーク: スポーツマン 】「OK。じゃあバイト終わりに」
【2トーク: ケイ 】「タケシは今どこ?」
【2トーク: スポーツマン 】「いまジムでバイト中。愛してるよ ケイ~」
【2トーク: ケイ 】「今晩いっぱい愛してね(ハート)」
ケイコ「あ、そろそろバイト行かなきゃ。合コン、考えといてね」
ケイコはそのまま立ち去っていく。
ヒロミはまだスマホの画面に釘付けである。
【個人検索アプリ】の画面は、ケイちゃんの「今晩いっぱい愛してね(ハート)」で止まっている。
ヒロミは慌てて、スマホから電話をかける。
5回目のコール音の後、電話がようやくつながる。
タケシ「はい。どうした?」
賑やかな音楽とともに、金属がぶつかる音が聞こえてくる。
ヒロミ「あ、タケシ。ごめんね。いま忙しい?」
タケシ「ジムでバイト中なんだけど」
ヒロミ「あ、ごめん。またかける」
ヒロミは慌てて電話を切る。
ヒロミは「ケイ」と「スポーツマン」のチャット画面を呆然と眺めている。
突然、ヒロミが手にしたスマホがブルブルとバイブしたかと思うと
画面が一瞬、消えてしまう。
ヒロミ「あれ?!」
今度はスマホが自動的に再起動し、通常のトップ画面が映し出される。
さっきまで映し出されていた【個人検索アプリ】の【2トーク】チャット画面が消えている。
ヒロミは慌てて【個人検索アプリ】を開こうとするが開かない。
ヒロミ「ど、どうして・・・」
ヒロミは顔を覆って泣く。
そんなヒロミを遠くから1時間近く監視している男がいた。
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