第4話:飯田マコト(男 35歳)

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第4話:飯田マコト(男 35歳)

(2020年10月1日 13:00PM、東京 山手線外回り 3号車内) 飯田マコトはスポーツ新聞を広げ、端の座席にひとりで座っている。 彼の視線は、車両中央の座席に座っている島田ヒロミを捉えていた。 飯田「(島田ヒロミ、20歳。都内私立大学に通う資産家の娘)」 飯田「(都内の一等地にビルを3つ所有し、 携帯通信事業でのし上がった父を持つひとり娘だ)」 飯田は時折、新聞紙から視線を外しヒロミをちらりと見る。 ヒロミはスマホを触っていて、周りを気にする様子もない。 飯田「(気の毒にも彼女の将来はすでに決定付けられている。 大学4年間が唯一、自由に行動できるのだろう)」 山手線は渋谷を出発し、新宿方面に向かっている。 飯田「(島田家の父親からの依頼で、 娘のヒロミの日常を監視してほしいと仕事の依頼があったのは1ヶ月前だ)」 (2020年10月1日 13:40PM 、池袋駅) 電車が池袋駅に着きヒロミがに降りると、飯田もタイミングをずらして降りる。 飯田はヒロミとの距離を保ちつつ、後ろをついて行く。 飯田「(ヘンな虫(男)が付いていないか心配するのもわかるが、 結婚相手ぐらい自由に選ばせてあげたらどうだ)」 飯田は素行調査の対象に決して感情移入はしない。 だが、20歳になっても親に束縛されているヒロミを少し不憫に感じた。 (2020年10月1日 14:00PM、 池袋にある私立大学構内) 大学構内に入ったヒロミを見届けると、飯田は大学のカフェテリアに入る。 飯田「(いつものルーティーンだと、講義のあとはカフェに来るはずだ)」 飯田は何気ない顔をして、カフェの入り口のテーブルに座り、 注文したコーヒーを口にする。 流石に大学構内を30代の男がウロウロするわけにはいかない。 ここは、大学に出入りしている業者のフリをして時間を潰すことにした。 飯田は何気に自分専用のスマホを取り出す。 彼は常時、プライベート用と仕事用の2台のスマホを持ち歩いている。 飯田はスマホ画面に見慣れないメッセージが出ているの気がつく。 メッセージ「アプリのインストールが完了しました!」 メッセージ「アプリを開きますか?」 飯田「(アプリなんてインストールしてないはずだが・・)」 飯田はメッセージを気にせず、 そのまま【2トーク】アプリを立ち上げメッセージを打ち込む。 【2トーク: MAKOTO 】「陽子ちゃん、今仕事?」 飯田のハンドルネームはMAKOTOだ。 コーヒーを一口飲んだ数分後に返事が返ってくる。 【2トーク: ようこ 】「そうだよ。今日はかなり忙しい」 【2トーク: MAKOTO 】「今週末は会える?」 【2トーク: ようこ 】「いいよ(ハート)」 【2トーク: MAKOTO 】「(喜ぶ)」 【2トーク: ようこ 】「あ、待って。子供と約束があったかも」 【2トーク: MAKOTO 】「(悲しい)」 【2トーク: ようこ 】「夜なら大丈夫かも」 【2トーク: MAKOTO 】「(期待!)」 【2トーク: ようこ 】「また連絡するね。仕事に戻るわ」 【2トーク: MAKOTO 】「ではまた」 飯田はスマホを胸ポケットにしまうと、会計をすませて、 カフェの入り口横にある喫煙所に向かう。 飯田が山本陽子と出会ったのは半年前のこと。 たまたま入った六本木のバーに陽子はひとりで飲んでいたのだ。 飯田もバツイチ、陽子もバツイチになったばかりで、 そのまま二人は意気投合した。 (2020年10月1日 15:30PM、 池袋にある私立大学のキャンパス内にあるカフェテリア) 飯田が2本目のタバコに火をつけたところだった。 島田ヒロミがひとりでカフェテラスに入って行く。 飯田「(今日は30分も早いな)」 夕方のカフェテラスには学生の姿はなく閑散としている。 ヒロミは窓際のテーブル席に座る。 飯田はヒロミとの距離を取るため、喫煙所を出て、 外からカフェテラスが見渡せる場所に移動する。 ヒロミはスマホを触りづづけている。 飯田「・・・」 ヒロミのテーブルにひとりの女子大生が近づいて来るのが見える。 飯田「(立花ケイコか・・)」 飯田によって島田ヒロミの身辺はすでに調査済みだった。 大学の友達がほとんどいないヒロミに、 唯一近づこうとしているのが立花ケイコだった。 飯田「(まぁ、立花の実家もたいそうな資産家だからな。 類は友を呼ぶってところか)」 ケイコはヒロミに積極的に何か話している。 だがヒロミはケイコの話よりもスマホが気になっているようだ。 ほぼ一方的にケイコが話をし、そのままケイコはカフェテラスを後にする。 ヒロミは取り残されるようにまたひとりになった。 ケイコがいなくなるのを見て、ヒロミはスマホで誰かに電話をしている。 飯田の方で会話の内容を聞くことはできない。 電話が終わったのか、ヒロミはスマホをテーブルに置くと そのまま顔を覆って泣き出している。 飯田「・・・」 島田ヒロミは涙で濡れた目をハンカチで拭くと、 深いため息をして、そのままカフェテラスから出て行く。 飯田の胸ポケットに入れたスマホのバイブが振動した。 飯田「飯田です。今、お嬢さんの大学に来ています。 はい、そのまま調査を続けます」 飯田は電話を切ると、そのままヒロミの後をつけて行く。 (2020年10月1日 19:00PM、 自由ヶ丘駅) 飯田はヒロミを追って自由ヶ丘駅の改札を出て行く。 ヒロミは誰かに後をつけられていることなど、 まったく気にする素振りはない。 飯田はヒロミが高級マンションに入ったのを見届けると、 仕事専用スマホで連絡を入れる。 飯田「飯田です。19時20分、お嬢さんが自宅に戻ったのを確認しました。」 飯島「はい。お一人です。詳細はまたレポートさせていただきます。 それではまた明日、よろしくお願いします。」 飯田は電話を切るとため息をつき、自由ヶ丘を後にする。
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