優しい君と、僕等の世界

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 ***  小学生の僕と幼稚園児のふうくんは、二人きりの兄弟だ。  名前は雷都(らいと)風都(ふうと)。風神雷神という神様からつけた名前ということで、僕はめっちゃくちゃ気に入っている。残念ながら、雷、なんてかっこいい字をもらっている僕なんかより、ずっとふうくんの方が強い子であったのだけれど。  ずっと兄弟、特に弟が欲しかった僕は、ふうくんがやってきて大いに喜んだ。お兄ちゃんをやるのはとっても大変だったし、まだ小さなふうくんは悪気もなくおもちゃを取ってしまったり壊してしまうこともあったけれど、それで僕も泣いてしまうこともあったけれど、ふうくんのことを嫌いになったことは一度もなかったのである。  ふうくんは、とっても強くて優しい子だ。  すぐに“にいに”と僕のことを呼んでくれるようになったし、僕が泣いているといつもやってきて僕の頭をよしよししてくれる。僕がふうくんを慰めたり可愛がる時、頭をよしよししていることを覚えたんだろう。ごめんなさい、とありがとう、もすぐに言えるようになった。ふうくんのせいで僕が泣くと、ふうくんは自分がどんな悪いことをしたのかわかっていない頃から“にい、よちよち”と僕の頭を撫でてくれたのである。  人を思いやれる、とっても優しい弟。しかも、ふうくんが凄いのは優しいところだけではない。  身体が小さくて、女の子のように可愛い顔をしているせいで、ふうくんは幼稚園でいじめられることも少なくなかった。でもふうくんは、いくらひどいことを言われても泣かないし、相手にやり返したりしないのだ。どうして、と以前僕が尋ねたら、ふうくんはこう返してきたのである。 『だって、叩いたら痛いから。先生もだめだよって言ってた。ぼく、じぶんが叩かれたらいやだから、人にいやなことはしたくないよ』  自分が不快な思いをした時、とっさに相手の立場をも思いやれる人間は大人にだって少ないというのに。  僕はそれを聞いた時、この子はとても立派な人間になるに違いないと思ったのだ。きっと僕はこの子を助けるために、お兄ちゃんとして此処にいるに違いない、と。  残念ながら僕はふうくんと違ってすぐに泣いてしまうし、ふうくんよりずっと身体も大きいのに喧嘩もすごく弱いけれど。それでも、いざふうくんが辛い時は、僕がふうくんを守ってあげなくちゃと思っていたのである。  そう、だから。  ふうくんが幼稚園でいじめられている話を、じいちゃんに相談してしまったのだ。ふうくんは、お父さんやお母さんには心配かけたくないから伝えたくないと言った。でも、夏休みに田舎に行った時にしか会わないじいちゃんなら、相談してもいいかもしれないと言ってくれたのである。
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