優しい君と、僕等の世界

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 厳しいけれど誠実で、非常に男らしくがっしりした身体のじいちゃん。叱られたこともたくさんあるけれど、じいちゃんに叱られることは“○○に行ってはいけない”とか“○○に登ってはいけいない”とか、後から冷静になって考えれば全部僕達のためになっていることばかりであったのである。  だからきっと、今回も的確なアドバイスをしてくれるはず。そう思っていたのに。 『いじめられるのはな、お前が男らしくないからだ、ふうと』 『え』 『もっと身体を鍛えて、やられたらやり返せ!喧嘩くらい強くないと、悪い奴をやっつけられないだろ。好きな子を守れないだろ!なんなら、じいちゃんが稽古をつけてやるぞ!』 『……じいちゃん、やりかえしたら、いたいよ?』 『いたい?そんな痛みに耐えられないから、お前はいじめられるんだろう!情けないこと言うんじゃない!』  じいちゃんとふうくんで、完全に会話が噛み合っていなかった。痛い、というのは“自分が殴る拳が痛い”という意味ではない。相手の子が痛いからふうくんは殴りたくないと言っているのに。  ふうくんは言葉数が少なくて、物静かな子だった。あんまりたくさんのことを喋るのが得意ではないので、わーっと相手に早口で言われてしまうとどうすればいいのかわからず固まってしまうのだ。  じいちゃんは、ふうくんのためを思って言っているつもりなのかもしれない。でもその言い方や内容は、ふうくんを傷つけるばかりのものだった。僕がハラハラしていると、ついにふうくんが耐え切れずぽろり、と涙を零してしまったのである。 ――泣いちゃった……あのふうくんが!叩かれれも転んでも絶対泣かないふうくんが!  それを見て、じいちゃんはさらに激怒。 『男の癖に泣くんじゃない!恥ずかしいと思わないのか!』  そして――話は冒頭に戻るのである。僕は完全にぷっつんしてしまった。そうだ、確かそういうのを“堪忍袋の尾が切れる”というのではなかっただろうか。  大人なら、もっと落ち着いてふうくんの足らない言葉を拾ったらどうなんだ。僕はその時そう思って――今はちょっと後悔している。  ふうくんを守るのが、僕の役目のはずなのに。  僕のせいで、あの強いふうくんを泣かせてしまった。僕は自分が許せなくて、また涙が溢れてくるのを止められなくなったのである。
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