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「それくらいにしましょう。セナさんが怯えていますよ。とにかく、ここでは体も冷えてしまいます。一度、部屋へと戻りませんか?」
わたしと女性の間に入り、笑顔で宥める少年に促されて。わたしたち三人は、今来た経路を辿るように戻る。
そうして二人は、わたしがいた部屋の手前――すぐ隣の扉前で、足を止めた。
「セナさん。もしかすると貴方は、眠っていたところへ急な警報音が鳴ったそのことに驚いて、脳内が一時的に混乱しているだけなのかもしれません。一度、ゆっくりと休んで様子を見る、ということにするのは、いかがでしょうか?」
「ふーん? んなことがあんのかよ?」
「わかりませんけれど、何らかの原因があることは、確かでしょうね。それに、今から話し込んだとしても、睡魔に襲われてしまい、効率的ではないでしょう。ならば、明朝の方が良いかと」
「ふうん。だそうだ、セナ。あんたもそれで良いか?」
とりあえずと、わたしは一つ頷いた。
反応を受けて、女性はドアノブに手を掛ける。
「じゃあな、セナ。目ぇ覚めて困ったことがありゃあ、何でも言えよ。あたしが助けてやる」
「だそうですので、遠慮なく訪ねてくださいね。それでは、おやすみなさい、セナさん」
二人はそう言うと、扉の向こうへと消えてしまった。
わたしのことを知っているようだったが、どんな関係のひとたちだったのだろうか。
味方かどうかはわからないけれど、一応、敵ではないということだけは、わかった。
「――敵……? どうして……」
何故、あの二人を敵か味方かで判断したのだろうか。
咄嗟に至った考えへ首を傾げながらも、わたしは扉を開けて部屋へと戻った。
上着を脱いで、まだ仄かに温もりの残っていたベッドへと身を沈ませる。
本当に混乱しているだけなのか。起きたら元通りになっているのだろうか。
不安の中、目を閉じる。そうであれと、淡い期待を抱いて。
そうしてわたしは、静かに襲い来る睡魔へと、意識を委ねた。
――こうして、悪夢は幕を開けた。
このまま目覚めることなく、何も知らずにいられたならば。
そうであれば、どれだけ幸せであっただろうか。
だって、間違いなくこの瞬間が、わたしの人生で一番幸福であったから。
何も知らず、すべてを忘れていられたら……。
もしかしたら、これは神様がくれたプレゼントだったのかもしれない。
けれど、何も知らない愚かなわたしは、手を伸ばしてしまうのだ。
嘘というベールに隠された、その先にあるもの。
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