暗闇の鬼ごっこ

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 力を入れた気配と、腕を振り上げる時に生じた、風を切る音が聞こえる。  そうして、喚く声が離れた場所で聞こえた、次の瞬間―― 「っ……!」  半歩隣で、風が起こった。  ばくばくと鳴る心臓を、そっと服の上から押さえる。  この心音が彼女に聞こえてしまうのではないか――そんな恐怖を抑えつけながら、こそこそと、ゆっくりと。わたしはその場から離れるようにして、逃げた。  目を閉じていたおかげか……暗闇に少し目が慣れている。  どうしよう。とにかく、何か灯りを――  向かうなら電気室か。ブレーカーが落ちただけなら、復旧できるかも。  でも、この暗闇では行ったところで、何も見えない。  何か、何か――懐中電灯とか……。  あれ、確かどこかにあった。どこで見たのだったっけ……。  思い出せ……どこだ、見たのは――  その時。そっと左手が、どこかのドアに触れた。  玄関の隣。ここは―― 「くっそ、何も見えねえ……おい、セナ。どこだよ? 近くにいんだろ? 出てこいよ」 「……!」  思わず漏れそうになった声を、呑み込んで。そっと雨音に紛れるように、気付かれないように、ゆっくりゆっくり、慎重にドアノブを握る手へ力を入れて。わずかに作った隙間から、体を室内へと滑り込ませた。  閉める時だって、油断してはならない。開けた時と同様に、そっと、ぱたん……閉じて。  ほっとしたのも、束の間。急いで目当ての物を見た棚へと向かった。 「あった……」  懐中電灯を手にして、ぎゅっと握る。  今頃キーツは、どうしているだろうか。  あの二人なら、暗闇でも動いていそうだけれど……。 「死んじゃ、だめだよ……」  男の無事を祈って。  そうしてわたしは電気室へ向かうべく、覚悟を決めた。 ◆◆◆  ざあっと館を叩きつける、激しい雨。  雷雲は遠ざかったのだろう――轟音は、あれきりだった。  漆黒の闇。その中で、わたしはリビングルームで一人、息を殺していた。  両手の中には、ぎゅっと固く握られた懐中電灯。  時折左腕が――二の腕が、ずきりと痛む。  大丈夫。ちょっと掠っただけだ。  動かせるし、利き腕じゃない。  だから、こんなことで立ち止まっているわけにはいかない。  けれど――扉の向こうでは、女性の声が響いていた。 「何で暗いんだよ! 見えねえだろうが! ……セナ……もう鬼ごっこは終わりだろ? 今度はかくれんぼかよ……」  苛立ち混じりの声が投げ掛けられる。  彼女はわたしが聞いているのを知ってか知らずか、続けた。
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