暗闇の鬼ごっこ

18/23
前へ
/123ページ
次へ
「なあ、あんたも周りが見えねえんだから、こそこそ隠れてねえで出てこいよ。まあ、安心しろって。まずは休戦といこうじゃねえか。こんな状態で暴れたって、互いに良いことねえよ。だから――」  声が近付いてくる。心臓が口から飛び出しそうなほどにばくばくと、うるさいくらいに聴覚を支配していた。  安心しろという声音は、信じられないまでに刺々しい。  怒りと、それからどこか不安さえ孕んでいるかのようだ。 「出てこいって!」  叫びに似た声とともに、扉を開ける音がする。おそらく、隣の娯楽室だろう。 「……いねえのか?」  思うに、扉を開けたままにしているらしい。閉じられる音は、聞こえなかった。 「どこだよ……こっちか?」  物置側へと行ったか――遠ざかる足音にホッとしつつも、安心してばかりもいられない。  向かった先にいないとわかれば、彼女はこのリビングルームにもやってくるだろうことが、想像するまでもなくわかった。 「いねえじゃねえか……だったら――」 「――!」  いつの間に――突如勢いよく開いたのは、リビングルームの扉。わたしは、まるで石像かのように、その場に固まってしまった。 「……あん? いねえな……」  ぼそりと短く、トーンの低い声で呟いて。  エルサさんは、まだ目が慣れていないのだろうか――部屋へ入って来ることもなく、わたしに気付かずに、その場を後にした。  念のため、ソファーの後ろに隠れていて正解だった……しかし、隈なく調べられていたら、呆気なく見つかっていただろう。 「どこだよ……。ったく、セナ……かくれんぼが上手いな、あんた……」  玄関の方に行ったのだろう――向かって右から、言葉は投げかけられた。  彼女は、この場を去った――扉を、開けたまま……。 「くそっ……トーリと合流するか?」  言いながら、食堂へ向かって行ったのだろう。声が遠ざかる。  どうする……出て行くなら、今か。  しん、とした廊下をそっと覗き見ながら、逡巡する。  ――これは、チャンスか。  でも、エルサさんがいつ戻ってくるとも知れない。それに、本当に食堂へ行ったのか。  わからない――もし、本当にトーリくんの元へ行ったのなら、この機会を逃すわけにはいかない。  だけど、でも……もしも、これがトラップだったならば。  そうであったなら、この部屋の扉の、すぐ近くで待ち伏せているかもしれない。  どうするか。どうしたら……どうしよう――  出るか。出ないか。  でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加