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数秒にも、数分にも感じられる時間の中。静まり返った、雨音だけが響く室内で。
ぐっと覚悟を決めて、わたしはソファーの背から出て、入り口へと向かった。
果たしてそこにエルサさんは――いなかった。
安堵からホッと胸を撫で下ろしながら、わたしはリビングルームを出る。
そうして、そばにある階段の手すりを掴んだ。
その時――
「セナ」
「――!」
にゅっと現れた、女の顔。
暗闇の中で白く浮き上がる姿に、息を呑む。
やっぱり、これは罠だった――エルサさんは、近くに潜んでいたのだ。
しかし――
「気配がしたと思ったんだが……いねえな……」
低音で呟かれた声が、冷たい瞳とともに今度こそリビングルームを後にする。
心臓が止まってしまったかと思った。
運が良かった――彼女は部屋の入り口を凝視していたため、階段で身を縮こまらせていたわたしには気付かなかったのだ。
「トーリい……!」
遠ざかる足音とともに、少年を呼ぶ声がする。
本当の本当に、エルサさんがこの場を去ったのだと、やっと確信できた。
足が、がくがくと震えている。
だけど、こんなところで音を上げてなんていられない。
エルサさんが、トーリくんの元へ行った……ということは、二人が合流してしまう。
キーツは無事なのか。
とにかく、見えないことはそれだけで恐怖だ。
一刻も早く、電気室へと向かわなければ。
わたしは息の整わないままに。きょろきょろと辺りを警戒しながら、階段を一気に駆け下りた。
「えっと、電気室、電気室……」
コツコツと足音が響く。角を曲がる時は、特に慎重に。
あの三人は揃って上にいるかもしれない。
だけど、もし第五の人物が本当にいたら。
あの廊下を作り出した、本物の殺人鬼がこの館にいたとしたら。
そうしたら、どこにいるかなんてわからない。
この、誰もが予想しえなかった停電という状況に、そのひとも驚いているとするならば。
わたしと同じことを考えて、この電気室へとやって来るかもしれない。
脳をフルで回転させながら、肩で息をして。
しかし何事もなく、わたしは無事に電気室へと辿り着いたのだった。
「スイッチが、いっぱい……」
分電盤を前に、立ち尽くす。
懐中電灯で照らしながら、じっと見つめた。
雷による誤作動だったなら、復旧可能だ。
だけど、もしもヒューズが切れていたり、変圧器など、どこか配線や機器が壊れてしまっていたら、もうわたしの手には負えない。
「漏電……あ、これかも。どうか、お願い――」
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