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祈りながら、落ちているブレーカーをオンにしてみる。
と――
「やった……!」
明滅の後に、蛍光灯が光る。電気が復旧したのだ。
開け放したままの、扉の向こう――廊下も、眩しいくらいの灯りが点いていた。
他の部屋も、きっと同様に戻っただろう。
「よし、じゃあキーツのところに戻って……」
手元の、懐中電灯のスイッチを切って。
一階に戻って、食堂へ。
そうルートを決めて、くるり。振り返ったわたしだったが、しかし――
「え――」
突如、視界がブラックアウトした。
頭部に衝撃を受けたことを理解する前に、体はどさり。
受け止めるものは、何もなく。わたしは床へと倒れ込む。
意識を失う直前。瞳に映ったのは、歪み吊り上がった唇と。
どこか見覚えのある、可愛らしいレディースシューズだった。
◆◆◆
――へえ、森の中にある館なんだ。もちろん行くよ。決まってるでしょ。誘ってくれて嬉しい。となると、いろいろ用意しなきゃだね。新しい服と、バッグと、それからお菓子も買って。他には、何がいるかな……買い物は、いつ行こうかな。ねえ、買い物も絶対一緒に行こうね。え、気が早い? ……それは、そうかもしれないけど……だって、楽しみなんだもん。キーツと二人きりの旅行なんて、初めてでしょ。あー、早く来月にならないかなー。
「――キーツ……」
目を開けると、冷たい床に寝そべっていた。ズキズキと頭が痛む。
瞼の裏には、スケジュールを楽しそうに確認する残像が残っていた。
「今のは……夢?」
いや、きっと記憶の欠片だ。
あれは、キーツと旅行の計画を立てていた、少し前のわたし。
ウキウキしていた、楽しみにしていた過去。
それが、今は――
「いったい、何が……」
四肢に力を入れて体を起こし、よろめきながらも立ち上がる。
そばに転がっていた懐中電灯を拾って、痛む頭を押さえた。
どうやら、出血はしていないらしい。
確かわたしはエルサさんをやり過ごして、この電気室へとやって来て。
そうして電気を復旧させて、上の階に戻ろうとした、その時――
「誰かに、殴られた――」
同じくらいの背丈。歪んだ口元が、印象的だった。
一瞬で顔はよく見えなかったし、映った光景もどこか朧げだ。
それでも、あの三人の誰とも違う――それだけは、わかった。
「やっぱりいるんだ……第五の人物――」
わたしを殺すでもなく、気絶させた。
そうして、そのまま転がしていった。
いったい、何のために――
「見つけました……」
「――!」
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