暗闇の鬼ごっこ

20/23
前へ
/123ページ
次へ
 祈りながら、落ちているブレーカーをオンにしてみる。  と―― 「やった……!」  明滅の後に、蛍光灯が光る。電気が復旧したのだ。  開け放したままの、扉の向こう――廊下も、眩しいくらいの灯りが点いていた。  他の部屋も、きっと同様に戻っただろう。 「よし、じゃあキーツのところに戻って……」  手元の、懐中電灯のスイッチを切って。  一階に戻って、食堂へ。  そうルートを決めて、くるり。振り返ったわたしだったが、しかし―― 「え――」  突如、視界がブラックアウトした。  頭部に衝撃を受けたことを理解する前に、体はどさり。  受け止めるものは、何もなく。わたしは床へと倒れ込む。  意識を失う直前。瞳に映ったのは、歪み吊り上がった唇と。  どこか見覚えのある、可愛らしいレディースシューズだった。 ◆◆◆  ――へえ、森の中にある館なんだ。もちろん行くよ。決まってるでしょ。誘ってくれて嬉しい。となると、いろいろ用意しなきゃだね。新しい服と、バッグと、それからお菓子も買って。他には、何がいるかな……買い物は、いつ行こうかな。ねえ、買い物も絶対一緒に行こうね。え、気が早い? ……それは、そうかもしれないけど……だって、楽しみなんだもん。キーツと二人きりの旅行なんて、初めてでしょ。あー、早く来月にならないかなー。 「――キーツ……」  目を開けると、冷たい床に寝そべっていた。ズキズキと頭が痛む。  瞼の裏には、スケジュールを楽しそうに確認する残像が残っていた。 「今のは……夢?」  いや、きっと記憶の欠片だ。  あれは、キーツと旅行の計画を立てていた、少し前のわたし。  ウキウキしていた、楽しみにしていた過去。  それが、今は―― 「いったい、何が……」  四肢に力を入れて体を起こし、よろめきながらも立ち上がる。  そばに転がっていた懐中電灯を拾って、痛む頭を押さえた。  どうやら、出血はしていないらしい。  確かわたしはエルサさんをやり過ごして、この電気室へとやって来て。  そうして電気を復旧させて、上の階に戻ろうとした、その時―― 「誰かに、殴られた――」  同じくらいの背丈。歪んだ口元が、印象的だった。  一瞬で顔はよく見えなかったし、映った光景もどこか朧げだ。  それでも、あの三人の誰とも違う――それだけは、わかった。 「やっぱりいるんだ……第五の人物――」  わたしを殺すでもなく、気絶させた。  そうして、そのまま転がしていった。  いったい、何のために―― 「見つけました……」 「――!」
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加