暗闇の鬼ごっこ

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 声が聞こえたと、同時。咄嗟に誰なのかを確認する前に、わたしは飛び退いた。  しかし、顔なんて見るまでもない――その声は、年下の少年のそれだったからだ。  案の定、わたしがいた場所には、包丁を振り下ろした姿のトーリくんがいた。 「逃げるのが、お上手ですね。しかし電気を復旧させて、そのままずっとここにいらっしゃったのですか? 何のために……ご自身の居場所を教えたようなものだというのにね」 「いたくていたわけじゃ、ないんですけどね……」 「んー、よくわかりませんが……ああ。もしかしてボクは、まんまと誘い込まれたということでしょうか? トラップでも仕掛けられていたら、どうしましょう……」 「そんなこと言って……本気で思ってもいないくせに」  吐き捨てると、にやり。  悪い顔をして、少年はわたしの睨みなど、どこ吹く風だ。  それにしても、どうして彼がここにいるのか。  この少年は、キーツと対峙していたはずなのに。  ぐっと拳を握り締める。 「停電していたとはいえ、あのエルサさんから逃げおおせるとは……さすがですね。是非、ボクとも遊んでくださいよ、セナさん」 「意地の悪いひと……わたしのこと、生かしておけないんじゃなかったんですか?」 「おや、聞いておられたのですね。気付かなくてすみません。殺されたかったとは……。ふふ、そうですね。一刻も早く片付けて、エルサさんを病院へ連れていきたいですよ。でも、それよりも、貴方をできるだけ苦しめたいのです。エルサさんが味わった屈辱、苦しみ、痛み……それを倍以上にして、プレゼントしたくて」  にこりと。今度は爽やかに、清々しくもある笑顔を浮かべてみせた。 「だから、もうちょっと我慢していてください。貴方を殺すのは、エルサさんの目の前。それまでは、少しずつ痛めつけて、傷つけて……そうして、貴方が無様に救いを請う――ああ、良いですね。とても愉しそうですね。そうなったら、きっとエルサさんは喜ぶ。ボクを褒めてくださる。きっとそうだ。そうに違いない。だから、セナさん。そんな様を、見せてください――!」  恍惚に頬を赤らめながら、満面の笑みを浮かべていた少年は、その刹那。まるで別人であるかのように、仮面を付け替えたかのように、すっと――冷たく鋭い、蔑みの光を湛えた瞳をしながら無表情に、助走も素振りもなく、唐突にわたしへと目掛けて、一直線に走ってきた。  もちろん、その手には凶器を携えて。 「――っ!」
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