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あんなところに倒れていたら――それは確実なる死しかない。
そうなったら、わたしは本当に殺人者だ。
正当防衛だとか、そんな言葉は知らない。
誰が何と言おうと、わたしが一生後悔をする。
だから、迷わず走った。
痺れ始めた手足に、顔を歪めながらも――
「トーリくん……」
扉が開けられたままの電気室に辿り着く。
倒れている体を見つけ、息を呑んだ。
しかし、立ち止まっている場合ではない。
一刻も早くここから連れ出さなければ――
「う……セ、ナさ……?」
良かった。どうやら、かろうじて意識はあるようだ。
トーリくんの体を運び出したいが、わたしでは彼の体を引き摺ることになってしまう。そのため、わたしは手伝ってもらおうとそばに立つ男の顔を見上げた。
しかしその表情は、理解できないと言わんばかりに顰められている。
無理もない。説明もせず連れてこられたと思ったら、目の前に先程まで対峙していた人間が倒れているのだ。
わずかな逡巡――わたしは行動した。
迷っている暇はない。
わたしたちだって、長居は禁物なのだから。
「っ……」
とはいえ、いくら体躯が近かろうと、ひとを一人運ぶのは至難の業。
予想通り、トーリくんの体を引き摺る形になってしまった。
ふいに、この男がひょいと軽々しくわたしを二階へと運んでいったことを思い出し、自然と苦い顔になる。
「っ、げほっ……ひゅっ……」
まだ入り口付近で良かった。
すぐに電気室から這い出して、階段へと向かう。
早く一階へ連れて行ってあげないと。
焦燥感ばかりが急いて、無力な自分を呪った。
その時――
「え――」
背中に感じていた重量が、ふっと消えた。
反射的に振り仰ぐと、キーツが無言で少年の体を抱えている。
彼は何も聞かずに、わたしからトーリくんの体を受け取ってくれたのだ。
その事実に、胸がぎゅうっと締め付けられる感覚に襲われる。と、男に顎で進行方法を指し示された。
そうだ。今は感動している場合じゃない。
気を引き締め直して、わたしたちは急いで一階へと向かった。
「えっと、こういう時は……」
本来ならば、病院へ連れて行くところなのだろうが。ともかくまずは、応急処置をせねばならないだろう。
通信機器もなければ、病院まではおそらくだが、遠い。
そう判断したわたしは、キーツをリビングルームへ誘導した。
大きなソファーへと、トーリくんの顔を横向けにして寝かせる。
少しでも息がしやすくなる方が良いだろうか。そう思い、衣服を緩めた。
「寒い?」
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