ヘマトフィリア

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「お前、あの女が食堂へ戻って来た後で消えたな」 「はい……暗闇の中で暴れておられる姿を見て、早く明るくしなければと、思いまして」 「え、明るく?」  わたしの質問に、にこりと一つ頷いて。内緒だと言い置いてから、こっそりと少年は教えてくれた。 「エルサさん、暗闇を苦手とされていまして」 「え――」 「だから、動きが鈍くなっていたのか」 「ええ。意外でしょう? そういう可愛いらしい方なのです。知られたとわかれば怖いので、黙っていてくださいね」 「わ、わかった……」 「ありがとうございます。――ですので、エルサさんは、あの時にボクの元へ戻ってこられたのだと、思います。それをわかっていながら、おそばを離れてしまって……判断を誤りました。電気が点いたその時に、実行されたのがセナさん、貴方だとすぐにわかりました。そこで、食堂へ戻っていれば良かったのに、欲が出てしまいましたね」  自嘲気味に笑って。トーリくんは眉尻を下げて、溜息を吐いた。 「きっと、エルサさんに叱られます」  淡い苦笑を向けられ、どうしたらいいかわからなくて。  私も、同じように苦笑した。 「そういえば、いつからかフランクに話してくださるようになりましたね、セナさん」 「え?」 「まるで、昨日初めてお会いした時のようです。記憶をなくされてからは、ずっと敬語でしたからね。なので、嬉しいです」 「え、あ――」  記憶のない初対面のことはわからないけれど。いつから敬語でなくなっていたのか――言われて初めて気が付いた。 「ああ、どうかお気になさらずに。ボクの方が、年は下ですし、気兼ねなく話していただけた方が、嬉しいですから」 「じゃあ、そうするね」 「はい」  にこりと微笑む少年に、同じく笑顔を向ける。  と、いつのまにか目的地に到着したようだった。 「――おう、戻ってきたか」  食堂へ足を踏み入れた、その瞬間。  ぎろりと、鋭い殺気とともに低い声が届いた。 「トーリ……それ、どういう状況だ?」 「エルサさん……」  トーリくんを、エルサさんが縛られている椅子の近くに座らせて。  眉根を寄せる怪訝な女性に、少年は力なく、先程あった出来事を話して聞かせた。 「――だから、この殺し合いをやめろってか?」  一通り話を聞き終えたエルサさんが放ったのは、その一言だった。 「命の恩人? トーリ、あんた本気で言ってんのか? その状態にしやがったのは誰だよ。セナじゃねえのか? ああ?」
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