48人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、あの女が食堂へ戻って来た後で消えたな」
「はい……暗闇の中で暴れておられる姿を見て、早く明るくしなければと、思いまして」
「え、明るく?」
わたしの質問に、にこりと一つ頷いて。内緒だと言い置いてから、こっそりと少年は教えてくれた。
「エルサさん、暗闇を苦手とされていまして」
「え――」
「だから、動きが鈍くなっていたのか」
「ええ。意外でしょう? そういう可愛いらしい方なのです。知られたとわかれば怖いので、黙っていてくださいね」
「わ、わかった……」
「ありがとうございます。――ですので、エルサさんは、あの時にボクの元へ戻ってこられたのだと、思います。それをわかっていながら、おそばを離れてしまって……判断を誤りました。電気が点いたその時に、実行されたのがセナさん、貴方だとすぐにわかりました。そこで、食堂へ戻っていれば良かったのに、欲が出てしまいましたね」
自嘲気味に笑って。トーリくんは眉尻を下げて、溜息を吐いた。
「きっと、エルサさんに叱られます」
淡い苦笑を向けられ、どうしたらいいかわからなくて。
私も、同じように苦笑した。
「そういえば、いつからかフランクに話してくださるようになりましたね、セナさん」
「え?」
「まるで、昨日初めてお会いした時のようです。記憶をなくされてからは、ずっと敬語でしたからね。なので、嬉しいです」
「え、あ――」
記憶のない初対面のことはわからないけれど。いつから敬語でなくなっていたのか――言われて初めて気が付いた。
「ああ、どうかお気になさらずに。ボクの方が、年は下ですし、気兼ねなく話していただけた方が、嬉しいですから」
「じゃあ、そうするね」
「はい」
にこりと微笑む少年に、同じく笑顔を向ける。
と、いつのまにか目的地に到着したようだった。
「――おう、戻ってきたか」
食堂へ足を踏み入れた、その瞬間。
ぎろりと、鋭い殺気とともに低い声が届いた。
「トーリ……それ、どういう状況だ?」
「エルサさん……」
トーリくんを、エルサさんが縛られている椅子の近くに座らせて。
眉根を寄せる怪訝な女性に、少年は力なく、先程あった出来事を話して聞かせた。
「――だから、この殺し合いをやめろってか?」
一通り話を聞き終えたエルサさんが放ったのは、その一言だった。
「命の恩人? トーリ、あんた本気で言ってんのか? その状態にしやがったのは誰だよ。セナじゃねえのか? ああ?」
最初のコメントを投稿しよう!