ヘマトフィリア

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「確かに、そうです。ですが、ならばどうして、そのまま放っておかず、危険を顧みることなく、助けてくださったのでしょうか? ボクは、セナさんのことを、殺そうとしていたのですよ? そのような相手を、必死に助けてくださった。その人を、エルサさん。貴方は、ボクに殺せと、そう仰るのですか?」 「……チッ。だからって、あたしは信用しない。セナがあの廊下を作り上げたんじゃなきゃ、誰がやったってんだ! この男か? こいつはセナの連れだろ? だったら、二人とも信用ならねえじゃねえか!」 「エルサさん……」  わたしでも、キーツでも。そしてエルサさんでも、トーリくんでもない。  だってこの館には、五人目がいる―― 「わたし、見ました。この館、まだ他にひとがいます」 「――何?」  すかさず反応したのは、二人ではなくキーツだった。  両肩をがしっと掴まれ、揺さぶられるように問い詰められる。 「いつだ? どんな人間だ! どこで見た?」 「か、顔は、よく見えなくて……地下の電気室で、わたしが電気を点けた時に。振り返ったら、そこにいたの」 「電気室に?」 「うん……そこでわたし、頭を何かで殴られて……」 「殴られただと?」 「そう。だから、顔とかは、全然見られなかった。ただ、笑った口元と、それから――」  同じくらいの背丈の、可愛らしい靴を履いていた女の子。  それだけが、記憶に残っている。 「そうか……」 「キーツ……?」  キーツの表情が、どこか痛そうに歪められる。  とても焦ったように見えたけれど、どうしたのだろうか。 「それで、ボクが電気室へ着いた時に、まだあの場にいらっしゃったのですね」 「あ、うん……たぶん、気絶してたのは、少しの間だけだったんだとは、思うけど……」 「――それを信じろってか?」  吐き捨てるようにそう言ったのは、エルサさん。  猜疑に満ちた瞳が、わたしを射抜く。 「証明は、できません。なので、信じてくださいとしか、言えません……」 「じゃあ、信じられねえな」 「……」  思わず俯く。  訪れた静寂――いつの間にか、雨音が聞こえなくなっていたことに気付いた。  時計を見れば、目を覚ましてから五時間ほどというところ。  記憶がある、あの火災報知器のサイレンから、まだ一日も経っていない。  そのことを意識した瞬間、どっと疲れが押し寄せてくるようだった。 「けほっ……」 「トーリくん、大丈夫?」
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