帰還

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パヴィは言う。 貴方の気持ちに応える事はできないけれど、貴方を確かに愛していると。 テオドラは分かっていると頷いた。 テオドラがパヴィから得たのは親愛の情、言うなれば家族愛だ。 パヴィに抱かれる小さな子もいつか、両親に愛を持って褒められたり叱られたりする日が来るのだろうか。自分も彼らのようにロリィの成長を喜び、見守り、時に叱る日が来るのだろうか。 ……ーーー許されるのならばそうでありたい、願わくばどうか…… 「……お子を、抱かせては頂けませんか兄上」 「ああ、抱いてくれ。お前の甥だぞ!」 兄の目をして笑んだエイデンはロリィを抱き直しテオドラの方へ緩く傾けた。するとロリィはきゃっきゃと笑い、自らで手を伸ばしてテオドラの腕の中へ飛び込んだのだ。 「テオドラ……この子が悩み道に迷う時はお前も導き手となってくれ、正しく物事を見極めることのできるように」 「兄上がお許しくださるのならば……この命をかけて、尽力しましょう」 パヴィと同じ色をした瞳、エイデンと同じ紅黒い髪、頬を叩いた小さな手、感慨深くそれらを見つめ、お二人に良く似ていて可愛いものですねと一言呟いたテオドラは、ロリィがパヴィへ手を伸ばすと小さな身体をそっと母の腕へと返す。 そして一歩身を引きエイデンの前に跪いた。 「……王の代わりなど私には務まらないと思い知りました、皆の支えなくしてこの国の留守を預かることなど到底出来なかったでしょう。良くご無事でお戻りになられました、我が王よ。王子とつがい様の息災と共に、ご帰還を伏して喜び申し上げます」 首を垂れたテオドラの姿を見て、それに倣い家臣らも皆揃ってその場に膝を着く。それは圧巻の光景であった。 「テオドラ、シェマ、良く留守を守ってくれた。皆にも感謝する」 エイデンが高らかに応えれば立ち上がったテオドラとシェマは道を譲り、先を歩く背中に続いてパヴィも歩みを進めた。すいと後ろに流された視線が絡み、パヴィへ向かって伸ばされた手。歩みを進めながらその手を取ると、玉座の側に用意された繊細な作りをした美しい椅子の前にエスコートされる。エイデンもまた壇上の重厚な玉座の前に立ち、振り返ると家臣らを見渡して一つ頷いて着席をした。パヴィもそれを見届けて同じく腰を下すと、室内は途端に沢山の歓喜の声で溢れる。 皆それぞれに帰還を喜び、口々に第一子であるロリィの誕生とパヴィが共にこの国へ戻った事に感謝の言葉を述べ、エイデンはそれを受けまた一人一人に礼を述べた。騒ぎが落ち着くと、再度パヴィの扱いを正妃と同等とする事、パヴィの性別に関しては訂正せず有耶無耶にしておけということ、ロリィの王位継承権はエイデンが掌握する事を述べ、最後にロリィの乳母にはリアを指名すると広間に集まった家臣らに宣言した。 驚いたのはリアだ。国に帰ればお役御免となり、正式に乳母が充てがわれるものだとばかり思っていたのだから。パヴィがリアへ貴女しか考えられないのだ、だからこれからもよろしくと言うと、感極まった彼女は涙を流して誠心誠意務めますと礼を尽くした。 エイデンは当たりを今一度見渡した。皆が笑い喜びに満ち溢れている。 横を見るとパヴィが微笑んでいた、それだけで…ーー頬を撫でる風も、目に見える景色も、全てが愛おしい。 虚しいと思っていた日々に、気が付けばいつの間にか鮮やかな色が戻っている。 王は今……唯一のつがいと我が子と共に、己が国へと帰還した。
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