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愛おしい、誰かにそんな感情を抱くのは初めてだった。
その対象が手元から飛び立つと、世界は途端に色褪せて見えた。
あれ以上傷付けぬ様にと手放した、その癖にふとした瞬間存在を探してしまう。
好いた者の声に名を呼ばれる事の尊さと、どうにも誤魔化せない寂しさを知った。
触れ合い分け合う熱の心地良さを俺に教えたのはお前なのだから……。
手中に納めてしまったら恐らくもう離してやれない、それなのに我が身の下で愛らしく淫らに喘ぐパヴィは早く"つがい"にしてとせがむ。今から白い頸の肌に噛み跡を残して、パヴィの唯一無二の存在になるのだと思えば滾る熱は一向に治らない。
「ん、んぁ、……エイデンさまッ、はやく、はやく」
「もう少し待てパヴィッ…」
昂りを飲み込んだ孔はすっかり解れ、突き上げるたびに柔らかな内壁がうねる。穿つ度に苦しそうに顔を顰めるのに、ふとした瞬間嬉しそうに口元を緩めるのだから堪らない。甘やかな香りに包まれて、小さな赤い舌を嬲り唾液を交わして深まる口付けに酔いしれた。快感に翻弄される姿を見ていたくて縋る手を縫い留めれば、急かすように早く早くと言っていたパヴィの様子が次第に変わり、腰を引こうとするとまるで行かないでと言わんばかりに太ももに挟まれる。そしてパヴィは大粒の涙を零しとうとうどうして噛んでくれないのかと言って、ふんふんと怒りだしたのだ。
「どうして、なんでッ…ん、んぁッ」
「すまない、悪かった。お前の願いは必ず叶える、だからそう泣くな」
「ゃ、んッ……だってッ!ず、ずっとおわらない、ぁ……ん」
「愛おしい人が俺で気持ち良くなっているのを見て、一度や二度で終われると思うか?ん?」
お前が可愛い過ぎるのがいけない、そう言って腰を揺するとパヴィはぴゃッと声にならない悲鳴を上げて瞳を大きく見開いた。そしてやっぱり溢れ出るのは甘い香り。嬉しいのだ、喜んでいる、そう分かってしまったらもっと良くしてやりたいと思うものだろう。もっと名を呼んでくれと言うと、息も絶え絶えに喘ぎながら懸命に応える健気な唇を食む。壊物を扱う様に額にかかった髪を避けた後頬に手を添え額を合わせ、けぶる睫毛を涙で濡らして震える瞳を覗き込み、エイデンはパヴィを一生縛りつける覚悟をするのだ。
「……」
「エイデン、さま……?」
一切の動きを止めてパヴィの瞳を見つめると、不安げな声で名を呼ばれた。安心させようと頬を撫でてやれば、手のひらに感じるのは吸い付くように柔らかな肌。ただただその存在が愛おしい。
「少し辛いかもしれないが堪えてくれよ」
「ん、ん、エイデンさまッ、あっ、あ、んぅッ」
ベッドに横たえた白い体を抱き直し発情の絶頂を誘うように最奥目がけて腰を送ると、何度も頷いて見せたパヴィはエイデンの首に腕を回して縋り足は腰に巻きついて振り落とされまいとする。
「ぇ、エイデンさまッ!なんかへん、こわい、こわいで、すッ、ん、ん、ぅああッ!」
「大丈夫だ、怖がるな……怖がらないでくれパヴィッ!」
どちらともなく漏れた熱い息が互いの肩を掠める。そして遂にその瞬間が訪れた、パヴィから一際濃く甘い香りが放たれたのだ。いやいやと被りを振ったパヴィは顔を大きく横へ逸らし、露わになった頸はほんのり赤く色づいて噛んでと誘う。頸に鼻の頭を擦り付け甘い匂いを嗅ぐとパヴィが大きく息を吸い込み、その一瞬を狙ってエイデンは口を大きく開け迷いなくそこに噛み付いた。
「ひぁぁあッ!!あ、あ、………ッん、く、っ」
「……ッ、ん、」
舌を撫でた血は不思議と甘かった。パヴィは背を弓なりに逸らし、吸い込んだ息は飲み込まれぴくぴくと震える。
エイデンはその体を宥める様に撫で、深く噛み付いた頸から顔を上げた。
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