つがう

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凄いこと……凄いことが起こった。 噛まれた瞬間目の奥でばちばちと火花が散り、不思議な事にこの身がエイデンと永遠に結ばれたのだと分かった。 息をしろ息を止めるなと言われ軽く頬を叩かれるまで、まるで時が止まったような一瞬だった。 中で果てたエイデンのものがずるりと引き抜かれ、腹に放った白濁の感触も相まってぶるりと一つ身震いする。何度も果てた体を力無くベットに預けたまま視線を上げると、エイデンは汗ばむ肌を惜しげもなく晒し、紅黒い髪が纏わりつくのも構わずパヴィの身を抱き起した。 「無理をさせた」 「……大丈夫、大丈夫です」 胡座をかくその上に横向きに抱えられ、呼吸が整うまでずっと頭から肩からあらゆる所を撫でられる。噛まれた頸は少し痛むけれど摩る手から伝わる温もりが気持ちいい、とても幸せだ。首筋に擦り寄ると額に唇が寄せられた。 「……エイデンさま、は……」 「なんだ、どうした?」 「これで、エイデン様は……ずっと、僕のだ。明日も明後日も、こらからの何年先もずっと」 「ああ、ずっとだ……ずっとお前のものだよパヴィ」 エイデンが喜びを噛み締めるように名を呼ぶものだから、やった、嬉しい、と確かそんな事を言った様な気がする。疲れ果て、優しい温もりに抱かれて次第に瞼が重くなる。しかしエイデンがまだ何か喋っている、聞かなければと懸命に目を開こうとすれば大きな手に視界を塞がれてしまう。 「お前は出会った時から俺との未来の話をする。生涯を共にするのだと言い出して、好きでい続けると宣言した。いつか市井を共に見たい、いつか早駆けをしたい、お前の願う些細な未来にさえ俺がいた」 「貴方の未来には……僕はいませんでしたか?」 「別れの間際に"待っている"と言ったお前が……俺の未来にいないだなんて考えられない」 「……、よかった」 それは必ず迎えに行くと心に決めていたという事なのだろう、嬉しさと安堵が相まってエイデンの手の下で閉じた瞼が震えた。 「毎日無感動に生きていた、感情を乱されるのが嫌だった。お前が来るまでは」 「……いまは、ちがうのですか?」 孤独を思い出すそんな声音に思わず問いかけると、エイデンはふはっと息を吐く様に笑い、目を覆っていた手を避けパヴィの顔を覗き込む。濃い蜂蜜色をした瞳は今日も綺麗だ。優しい手つきで髪を梳かれ、指の腹の圧を地肌に感じ気持ちが良い。 「……お前の事ばかり考えて、虚しさを感じる暇もなかったな」 「……」 「側にいなければ物足りない、半身が欠けた様だった。これで……一つだ、やっと」 体がぐっと引き上がる感覚がし、顔が近づいたと思ったらちうと音を立てて唇を啄まれた。そして眠れと言う柔らかな声に倣って、一度去りかけた眠気が押し寄せてくる。待って一言足りとも漏らさず貴方の言葉を聞きたい、そう思うのに瞼はすっかり閉じきってしまった。 「今も本当はお前を誰にも見せず閉じ込めてしまいたい」 幼い頃に成長を止めてしまった一部の感情が、大切なものは誰にも見られないように隠せと未だに激しく叫ぶのだ。 ああ、こんな筈ではなかった……狂おしいほど愛おしいパヴィ 同じだけの気持ちを返してやれないと言った癖に、お前が俺を思う気持ちが同じだけの重さを伴っていてくれたらいいのに。 漂う意識の向こうで鼓膜を揺らす声は誰に聞かすでもなく独り言の様に呟かれる。 パヴィは何とか聞こえてると伝えたくて朧げな意識の中で持ち上げた手は頬に届かず、甲に触れた紅く黒い髪を捕まえた。するとエイデンが笑う気配がした。
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