旅立ち

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パヴィとロリィが北の小国で過ごす最後の夜。父王は家族で過ごそうと言い、エイデンは勿論のことリアとセシオも招かれささやかな食事会が開かれた。 そしてその翌日の早朝のこと。白銀を馬で駆けるパヴィの姿を見てみたいと言ったエイデンと共に、少し馬を走らせて神殿へとやって来たのだった。白い息を吐くエイデンは馬を繋ぎ首元を撫で嗎を宥めパヴィへ向き直ると、まるで美しいものを見る様にして眩しげにそっと目を細めた。二人は今、この国一の大きさを誇る太陽神の像を見上げている。エイデンは感慨深く像を見上げていたが不意に膝を着きなにやら祈り始めたので、パヴィもそれに倣って隣に落ち着き、長年の心の支えであった太陽神へ別れの挨拶をした。 城に帰ればそれはもう追い立てられる様に城を出ることになった。 パヴィは父や弟と額を寄せ合い互いの幸せを祈る。父王は最愛の息子や孫との別れを惜しみ、涙を堪える様に目頭を幾度となく揉んでいた。 護衛兵に守りを任せ馬車に乗り小国を出て、道が開けると陸路と海路を駆使して南の大国へ帰る手筈になっている。全ての準備を済ませリアとセシオも付き従いロリィを抱いてエイデンと共に城を出ると、パヴィの目に飛び込んで来たのは驚きの光景だった。 「パヴィさまーー!!ロリィさまー!お幸せにーーー!!」 「お元気でーーー!!」 「バイバーーイ!パヴィさまーー!!」 「パヴィさまー!ずっとずっと、だいすきだよーー!」 「王様!パヴィ様とロリィ様をどうかよろしくお願いします!!」 「やんちゃ坊主ーーー!達者でなーーー!」 小さな国の人々がパヴィの旅立ちを見送る為に城下へと集まり花道が出来上がっていたのだ、それはそれは盛大な見送りになった。沢山の人々に混ざって所々に南の大国の兵がいる、どうやら彼らは住民たちと一緒に雪掻きをし道を整備していたらしい。エイデンはパヴィを連れ帰るに当たって、再度強固な同盟を結び北の小国へ最大の敬意を表した。友好的な交流を果たしたのだろう、兵らは共に汗水を流した人らに笑顔で別れの挨拶を済ませ、一人また一人と一団に合流してゆく。その間も人々がパヴィの名を呼ぶ声は止まない。子供達は馬車を追いかけ、見送る人の中には目に涙を浮かべる者までいた。エイデンがお前は本当に沢山の人々に愛されているのだなと言うと、照れ臭そうにはにかんでパヴィはそれに一つ一つ手を振って返した。 そしてとうとう北の小国の大門を抜ける時……。 パヴィはロリィをエイデンに任せると、馬車の窓から半身を乗り出して後方を仰ぎ見た。手を振る人々と白く眩いこの風景を忘れぬ様に胸に抱きしめて、腹に力を込め精一杯の声を張り上げる。 「ありがとーーー!!みんなーーー!元気でーーッ!!」 懸命に群集へ手を振る一人の王子の旅立ち。 沢山の人々に愛されたパヴィが、この先の人生で故郷を思い出し、寂しさを感じる事がないように大きな愛で包み込める男になるのだとエイデンは決意する。そして愛おしい人と、彼の産んだ可愛い我が子を、この命が尽きるまで愛し抜こうと、人々が見えなくなるまで手を振り別れを告げる小さな背中とあの太陽神の像を思い出し固く誓った。
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