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【 最終話: さようなら、お兄ちゃん 】
私は、新幹線のホームで、実家に帰るため、一人で乗る新幹線を待っていた。
何かのドラマだったら、ここでお兄ちゃんが現れて、ハッピーエンドになるのにと思いながら、両手で顔を塞いで、零れ落ちる涙を止めることが出来なかった。
『パポポポ、パポパポポン……』
「新幹線、来ちゃった……。お兄ちゃん、やっぱり、来なかった……」
私は、全てを忘れようと思っていた。
やっぱり、お兄ちゃんとは、兄と妹の関係以上には、なれないんだ……。
私は、新たな気持ちで、新幹線に乗り込んだ。
お兄ちゃんを忘れるために……。
――私は、新幹線を降りる時には、明日の学校のことをもう考えていた。
キャリーケースを引いて、新幹線の改札口を出ると、突然、私の耳に心地よいあの声が聞こえて来たの……。
「若菜ーーーーっ!!」
「えっ? お、お兄ちゃん……?」
私が後ろを振り返ろうとすると、お兄ちゃんは私に駆け寄って来て、いきなり私を後ろから抱きしめた……。
「はぁはぁ、若菜、ごめん! 若菜、俺、やっぱりお前のことが好きだ!!」
「えっ? お兄ちゃん……」
「若菜、まだお兄ちゃんのことが好きなら、俺と……、俺と付き合ってくれ!!」
お兄ちゃんはそう言うと、後ろから私の首元に両手を絡ませて、強く私を抱きしめた。
私はお兄ちゃんのその大きな両腕を握り締めて、瞳から流れる涙がその両腕の上にポトリ、ポトリと落ちていた。
でも……
「お兄ちゃん……、ごめんね……。やっぱり、私とお兄ちゃんは、兄と妹の関係のままの方がいいと思うの」
「えっ? わ、若菜……」
私は、お兄ちゃんの手を振りほどき、笑顔で振り返って、お兄ちゃんにこう言った。
「バカだな。龍之介! そんなこと言われたら、私の心が揺らいじゃうだろ! もう二度と、若菜を離すんじゃないぞ! お兄ちゃん……」
「若菜……!」
私は、お兄ちゃんの胸に飛び込んだ。
お兄ちゃんは、涙を流しながら、私を強く、強く抱きしめてくれた。
そして、人混みの新幹線の改札口で、お兄ちゃんは人目を憚らず、やさしく私に初めての『キス♪』をした。
「若菜、お願いがある……」
「また、お願い?」
「1ヶ月だけの彼女じゃなくて、これからも俺の彼女でいてくれないか」
「うふふっ。しょうがないな、龍之介は! いいよ♪ 延長料金高いぞ♪」
「何でもするし、何でも若菜の言うこと聞くよ」
「じゃあ、また猫ちゃんメイドごっこに付き合うんだぞ♪」
「わ、分かった……。付き合うよ……」
「お兄ちゃん♪ ニャンニャンゴロゴロ♪」
私はそう言うと猫の手で、思いっきりお兄ちゃんの胸の中に飛び込んで甘えた。
お兄ちゃんは、私の頭をナデナデすると、私の髪にも口づけをしてくれた。
それから、しばらくの間、私たちは駅の改札口で、大勢の人の前で、仲良く寄り添っていた。
お兄ちゃんとおでこをくっつけて、二人で見つめ合い、笑顔でいつまでもおしゃべりをした。
恋人同士のように……。
今年の夏休みの最高の思い出が、お兄ちゃんと二人でまた一つできた。
「お兄ちゃん、今日は実家に泊まっていくんだぞ♪」
「ああ、お手柔らかに……」
――私は、お兄ちゃんに恋をしてしまった。
でも、お兄ちゃんはそんな私の気持ちに気付かないまま、東京の大学へ進学して行った。
私はお兄ちゃんがいなくなってから、毎日夜、ひとりで泣いていたんだよ。
小さい頃から一緒だったお兄ちゃんがいなくなって、私は初めてお兄ちゃんに対する思いに気付いたんだ。
そう、お兄ちゃんが『大好き』だっていうことに……。
そして、この中学2年生の夏の終わり、私とお兄ちゃんの期限のない初恋ストーリーが、今ここから始まったんだ。
END
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