【 第五話: 1ヶ月限定だよ♪ 】

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【 第五話: 1ヶ月限定だよ♪ 】

 私たちは、みんなと別れてお兄ちゃんのアパートへ向かった。  お兄ちゃんと二人で帰る途中、私は落ち込んでいた……。  お兄ちゃんの彼女として、ちゃんと演じきれなかったから……。 「若菜、今日はありがとう。これで彼女たちも諦めてくれたみたい」 「う、うん……」 「ん? どうした? 若菜……、元気がないけど……」 「お兄ちゃん、ごめんね……」 「んっ? どうして謝る……?」 「だって、お兄ちゃんの彼女、全然演じきれてなかったもん……。ぐすん……」 「そ、そんなことないよ。大丈夫だったよ、若菜は。立派にお兄ちゃんの彼女だったよ」 「ほんと……?」 「ああ、ほんと若菜には感謝してる。ありがとう、若菜」 「うぅぅ~ん……」  私は泣きながら、お兄ちゃんの腕に強く抱きついた。  私の瞳から零れ落ちた涙が、お兄ちゃんの服に染み込んでいくのが分かった。  お兄ちゃんも、そんな私の頭をやさしく、ポンポンして(なぐさ)めてくれた。  やっぱり、お兄ちゃんは、世界一やさしい。  お兄ちゃんのアパートに着くと、もう夜の9時になっていた。  お兄ちゃんは、私の帰りの新幹線の時間を気にしていた。 「若菜、ごめん。夏休みの宿題見てあげる時間なくなっちゃった」 「ううん。いいよ」 「新幹線の最終の時間って、何時だったかな?」 「あ、もう新幹線で帰れない」 「えっ? もう最終に間に合わなかったっけ?」 「うん。もう最終電車行っちゃった」 「行っちゃったって……。それはマズイな……。若菜、今日帰れないじゃん……」 「うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん。そのための用意して来たから」 「ええーっ! どういうこと!?」 「キャリーケースの中に、着替えとか全部入ってるから」 「ま、まさか、若菜……。最初から、そのつもりだった……?」 「うん。多分、新幹線に間に合わないだろうなぁ~って、思ってた」 「思ってたって……、あちゃ~……。母さんには言ってあるのか?」 「うん。出掛ける時に、ちゃんと言ったよ。お兄ちゃんのところに『1ヶ月(・・・)』泊まって来るって」 「い、1ヶ月!?」 「うん。1ヶ月」 「ダメだ、ダメだ……。それは、ダメだ……」 「えっ? どうして?」 「だって、今日1日はいいけど、1ヶ月はダメだろう……」 「何で? 私たち『兄妹』だから、いいじゃん」 「そりゃあ、兄妹だけど……、一応、若菜も、もう中学生なんだから……」 「中学生だと、兄妹で一緒に泊まったらいけないの?」 「まあ、いけなくはないけど……」 「それにお兄ちゃんから、彼女になってくれって言ってきたんだよ」 「そうだけどさあ……」 「あと、私もお兄ちゃんにお願いしたじゃん。夏休みの宿題見るって約束」 「ああ、確かに、約束はしたけど……」 「だから、1ヶ月は、お兄ちゃんと一緒に、お兄ちゃんの彼女としてここで暮らすの」 「こんなところで二人で暮らすのは、さすがにマズイって……」 「だって、またお兄ちゃんが女の子たちに言い寄られたら、お兄ちゃん断るの大変でしょ?」 「そうだけどね……」 「それに、若菜の夏休みの宿題いっぱいあるんだよ」 「そんなにあるのか~?」 「うん、いっぱいある。だから、若菜にいっぱい教えてね。お兄ちゃん♪」  私は、内心、胸がドキドキしていたんだ。  手に汗もかいていたし、ちょっと手が震えていたんだよ。  でも、勇気を出して、お兄ちゃんに言えた。  いつもだったら、こんなこと言えなかったけど、お兄ちゃんと一緒に暮らすこのチャンスは逃したくなかった。  また、夜一人で泣きたくなかったから。  だから、この1ヶ月は、お兄ちゃんといっぱい色々なことを経験して、いっぱい思い出を作るんだ。  また一人で寂しくならないように……。
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