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【 第六話: ひと夏の思い出 】
私は、それから、お兄ちゃんと色々な場所で、色々な思い出を作った。
街へ出掛けて、一緒にショッピングやデートをしたり、かわいいメイドカフェの衣装や猫耳としっぽの衣装を買ってもらって、それを着てお兄ちゃんと遊んだり、夏祭りへ出掛けて、金魚すくいをして二匹の金魚をお兄ちゃんがすくって二人で育てたり、綺麗な朝顔柄の風鈴を買ってもらってベランダに付けたり、大好きなお兄ちゃんと一緒に寄り添って打ち上げ花火を見たり……。
このひと夏で、色々な楽しい思い出が、お兄ちゃんといっぱい出来た。
――でも、そんな楽しいお兄ちゃんとの夏休みも、あと残り3日となったある日、突然事件が起きた。
夏祭りでお兄ちゃんが取ってくれた、金魚が一匹死んじゃった……。
小さなかわいい赤い金魚が……。
私は泣きながら、アパートの裏庭にその金魚さんのお墓を作った。
今思うと、それが、お兄ちゃんとの関係に亀裂が入る前兆だったのかもしれない。
私は、落ち込んでいる中、お兄ちゃんと些細なことで、初めて喧嘩をしたの。
お兄ちゃんは、私のことを妹としか見れないって、言うから、お兄ちゃんに本当は『血の繋がった兄妹でないこと』を遂に、口に出してしまった。
そして、私はそんなお兄ちゃんに「意気地なし!」って、思わず言っちゃったの……。
そうしたら、お兄ちゃんは、突然、どこかへ電話をしたんだ……。
「あっ、龍之介だけど。今、時間いいかな?」
『あっ、龍之介くん。久しぶりだね。別にいいわよ』
「今でも、俺のこと好きかな?」
『えっ? す、好きだけど……。どうして……?』
「もし、OKなら、今から会えない?」
『えっ? でも、若菜ちゃんは大丈夫なの……?」
「今まで隠しててゴメン……。実は、若菜は俺の妹で、まだ中学生なんだ……」
『えっ? そうなの……。幼く見えたのは、そのせいだったの……?』
「ああ……。今から会いに行ってもいいかな?」
『ええ……、いいわよ。私もまだ龍之介くんのこと好きだから……』
「ありがとう。今からそっちへ行くね」
お兄ちゃんは電話を切ると、私に、「今日は戻らないから」と言って家を出て行った。
「お兄ちゃん……」
私は、部屋の中で一人きり、力なく床にしゃがみ込み、泣き崩れた。
ベランダに吊るしてあったあのお兄ちゃんとの思い出の風鈴が、一瞬の強い風で外れて、落ちて割れてしまった。
『パリーーン!』
いつも心地よく鳴っていた風鈴の音を失くしてしまった部屋の中で、私は一人、苦しくなった胸を押さえながら、声を出して泣いていた。
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