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 ……彼のキスは乱暴だ。  そんなことを思う。優しさよりも、強さがあって、なんだかその強引さにどきどきする。  タクシーに乗って移動している間は、一切会話はなかった。ただ逃げ出させないように理文の腕を哲は掴み続けていて、マンションの部屋に辿りつき、鍵を空けて中に入った次の瞬間には強く抱き寄せられ、唇を奪われていた。 「あ、……ン、ん」  ぬるりとすぐに舌が口腔に入ってきて、甘く絡み合う。  強く求められるキスについ後ずさって、居室に続くドアに理文は背中をぶつけていた。そのままドアに押しつけられるようにして、唇を貪られる。  今まで彼との行為を想像したことがない、と言ったら嘘になる。だが、こんな強引で積極的で情熱的だとは思っていなくて、思いがけない彼の熱さに理文は翻弄された。  あっという間に身体が熱くなり、身じろぐたび、布越しに合わさった胸がこすれて、たまらない感覚が身体の内側に湧きあがる。  戸惑う指先が、すがるように哲の上着の背中を掴んだ。  その仕草に気づいた哲がふと顔をあげて、額がぶつかるような近さで真面目な顔をして、息苦しいくらいのキスに喘ぐ理文を見下ろす。 「……なんか、おまえ、かわいいな」 「っ、な、にバカ言って!」  カッとなって言い返した途端、部屋に続く引き戸を開けられて、瞬く間にすぐ目の前に置かれたベッドに押し倒されていた。  服を脱がすことさえもどかしいように、シャツの裾をかきあげて、哲の大きな手のひらが胸を滑りあがっていく。唇が首筋に落ち、鼻先がうなじを撫で、喉に甘く噛みつかれる。  たったそれだけで、一気に身体が欲望に燃えあがり、理文は慌てた。 「っと、待って、待って!」  ベッドの上で、理文は哲から逃れるように枕のほうにずり上がった。展開が早すぎて、気持ちがまだついていけていない。だが、途中で行為を止められた哲は、またすぐにでも飛びかかりそうな獰猛な空気をまとったまま、むっと顔をしかめる。  そこに確かに彼の欲情が見てとれて、理文は身体が熱くなるような気がした。 「……服、脱ごう。哲の、スーツ、しわになるし」  動揺し困惑し、逸る気持ちを落ちつけようと、理文はそう言った。  脱がしたい、なんてバカなことは哲も言わなかった。「分かった」と低い声で頷いて、さっさとスーツの上着を脱ぎ始める。スーツを着ている哲と違って、理文はロールアップしたカーゴパンツにシャツの軽装だったため、むしろ先に自分の方がパンツ一枚になってしまって、ベッドの上でつい膝を抱えていた。  哲は身体が大きい。肩幅があって、胸板は厚く、特別に鍛えているという話は聞いてはいないのに、バランス良くしなやかな筋肉がその身体を覆っている。  大学時代の途中までは修学旅行やなにやらで一緒に風呂に入ったことが何度もあるが、カミングアウトしてから彼の肉体を見るのは初めてで、じっと余すところなく見たいという想いと恥ずかしさが絡み合って、うろうろと視線をさまよわせた。  こんなベッドの上で裸になって──本当にいいのか。  哲は普通にストレートで女の子が好きで、少なくとも理文が知っているだけでも三人の女の子と付き合ってきていて、だけど自分は男で。胸もないし、柔らかくもないし、なにかついてるし、……男の身体を見て欲情するような男で。  ぎしりとベッドが軋んで、ハッと顔をあげると、理文と同じようにパンツ一枚になった哲がベッドに膝をついて上がろうとしたところだった。  目が合って、瞬間カアッと顔が赤くなる。 「……さっきからなんなの、おまえ。誘ってんのか」 「え、違っ」  反射的に否定したときには、すでに哲が覆いかぶさってきていた。  ベッドに押し倒され、熱い素肌が直接擦り合わさって、それだけで理文はぴくんと身体を震わせた。たまらず吐息を洩らした唇に、すぐ彼の唇が重なって、それ以上の声を飲み込まれる。  手のひらが肩を撫で、肩甲骨のかたちをなぞるようにしながら、もう片方の指先が背骨を辿って、腰へと下がっていく。 「ん……っ」  あっという間に自分の欲望が昂るのを感じて、理文は身じろいだ。  たったこれだけで感じて欲望を膨らませているなんて気づかれるのは嫌だ。そう思っても身体を重ねていれば、理文の変化はすぐに知れて、哲の手のひらがあっという間に腰から下の唯一身につけている下着に辿りついていた。  思わず抗うように身体をよじれば、足を絡ませるようにそれを防がれる。 「……や、哲、明かり、消して……」  せめて電気を消すように、とか細い声でねだったが、だめだった。  喉から胸へ唇をゆっくりと移動させながら、哲の指がパンツに触れる。今さらそれを恥じらい、抗うことの無意味さを分かっていながらも、ほとんど無意識に膝を閉じれば、その行為を咎めるように急に胸の突起に吸いつかれた。 「っ」  思いがけない刺激にびくびくっと身体を震わせた隙に、強引にパンツを剥ぎ取られる。さらに大きく足を開かされそうになり、彼の意図に気づいた理文は慌てて身体を起こしていた。 「ちょっ、待って待って、哲、見るなって!」  理文の懇願を聞かず、哲は細い理文の足首を捉えて、大きく開かせていた。明るい電気の下で自らの欲望をさらされて、たまらず理文はベッドに沈んで両腕で顔を覆い隠す。 「も、やだ、電気、消してよ……」  顔を隠したまま零す声は、ほとんど泣き声に近かった。  だが哲は電気を消すわけでもなく、足首を持ち上げて足を大きく開かせたまま見下ろして、仄かな熱を秘めた声で感想を漏らした。 「なんだよ。別に隠すようなものじゃないだろ。普通の大きさだし、包茎でもないし、……まあ、なんていうか、まださわってもないのに、すごいエロい感じになってるけど」 「っ」  キスだけですでにはしたなく蜜を垂らしながら半勃ちになっている下肢を指摘され、さらにその言葉に煽られて理文の欲望が反り返る。理文は羞恥でもう言葉も出てこなかった。  ──こんな姿を哲に見られている。  こんな淫らがましく、欲にまみれた姿を。  足首をベッドに下ろしながらも、足を閉じさせる気はないらしく、開かせた足の間に身体を押し進め、理文に覆いかぶさりながら、哲はどこか淡々と責めるような言葉を続けた。 「……なあ、おまえ、いつもこんななのか? こんな、さわってもないのに、ぬるぬるになってエロい感じになって、他の男とやってるのか」 「ちがっ」  反射的に言い返そうと腕から顔を出せば、思いがけず真剣な眼差しが見下ろしてきて、ぞくりと理文は身体を震わせた。怖いぐらいの目で理文を見下ろしながら、今度は理文の手首を掴むと、哲は大きな手でそれをひとつに捕えてベッドに押しつけてくる。 「なにが違うんだよ。なんだよこれ。こんなの、男誘ってるとしか思えないだろ」 「ち、が、んっ、あ……っ」  詰るような言葉を吐きながら、哲の指先が反り返った理文の欲望を撫でてきて、理文の反駁は途中で扇情的な喘ぎ声に変わる。  指先はどこか嘲るように淫猥な欲望のかたちを緩慢になぞり、それだけで今にも達してしまいそうな快感を感じながら、口をついて出そうになる喘ぎ声を抑えて理文は必死で訴えた。 「ちがう、こんな、俺、こんなになるのは、初めて」 「嘘つけ」  冷たく言い放って、哲は理文の下肢を握りこむと、ゆっくりと擦りたて始めた。 「……あっ、やだ、っ、ん、……っ」  ずっと好きだった哲から与えられる快感と、その彼にまるで蔑まれているかのように冷たくあしらわれる苦しさが胸の内で混ざり合って、理文の目から涙がぽろぽろとこぼれ出す。 「あ、きらっ、本当に、ちがう。っ、俺、おれ、哲だから、こんな」 「……理文」 「あきら、だからっ、あ、あ、だめ、イク、イっちゃう……っ」  擦りたてる彼の手の動きに合わせて、より快感を得ようと理文は無意識に腰を動かしていた。  溢れる密が艶めかしい音をたてる。  いつのまにか手の戒めが外れていて、必死で理文は自由になったその腕を覆いかぶさる哲に伸ばした。首に巻きつけるように回して抱き寄せ、ぎゅっとその肩に額を押し当てる。 「や、あ、──っ」 「っ」  こらえきれずに、熱い液体が理文自身の身体の上に飛び散った。  一気に高みまで駆け上がった感じだった。あまりにもあっという間で、達した本人ですら呆然としてしまう。  気づけば、自分の吐きだした体液が腹と胸の上にとどまらず顎にまでかかっていて、身体に残る甘い痺れにぼんやりしたまま、理文は手の甲でそれを拭きとった。そのまま自分の指先で涙に濡れたまなじりをぬぐう。  その途端、いきなり哲が理文の頭のすぐそばの枕に拳を叩きつけた。思わず理文は怯えて肩をすくませている。 「っ、え、なに!?」 「くそっ、あーもう、なんなんだよ!」  叫ぶようにそう言って、哲はぶつける勢いで理文の肩に自らの額を押しつけた。 「こんなエロい顔っ、今まで一体何人の男に見せてきたんだよ! 本当にふざけんなよ。クソムカつく。ムカつきすぎて頭が変になりそうだ……ッ」 「……あきら?」  それは、もしかして嫉妬なのか。  彼のその心情がなんだか信じられなくて、呆然と理文は自分の肩に顔を埋めて苛立ちを露わにする友人を見た。なにか言わなければ、とぼんやりしたまま口を開く。 「いや、でも、俺、本当にこんなちょっと擦られただけですぐイッたの初めてつーか。いつもは俺、相手に好き勝手されるの嫌だから、こんな強引にされるの初めてつーか……」  自分で言い出しておきながら、なに言っているんだ、と途中で我に返る。急に恥ずかしくなって、理文は尻すぼみで続ける言葉を途中で終わらせた。  だが実際、今までの相手に対して、理文はいつだって自分が上位にいなければ気が済まなかった。たとえ相手の欲望をその身に受ける側だとしても、主導権を握るのは自分で、理文の許容を逸脱するような行為や強引なふるまいは好まなかった。そして、そういうことを受け入れる相手を選んできたのだ。  こんなキスだけでバカみたいに感じて、彼に見られていることにまた感じて、相手のされるがままあっという間に達したのは、本当に初めてだ。  ──だって相手が哲だから。  あの真面目で硬派で頑固で、ずっと好きだった哲にされているというだけで、興奮しないわけがない。 「そういうの俺が初めてって本当に言ってる?」  けれど、そんな理文を疑う問いかけを哲が投げてきて、理文は慌てて顔をあげた。まだ少し苛立ちを抱えた様子で哲がじっと理文を見つめてくる。 「……どーせ俺はゲイだし、今までいっぱい男いたし、そういうの汚いとか嫌だとか思われても仕方ないけど、でも、本気で好きな相手とするのは初めて、だし」  そんなふうに答えているうちに、またベッドの上で真っ裸で向き合って、ずっと憧れていた哲の逞しい身体が目の前にあることが恥ずかしくなってきて、理文はもじもじと居住まいを正した。目を逸らそうと思っても、うつむくと彼の力強い太ももとボクサーパンツに包まれたふくらみが視界に入ってきてしまう。  ──彼に抱かれたい。されたい。彼に、もっと。……奥まで。  ほんの少し想像するだけで身体が痺れてきて、きゅっと理文は身体を縮めた。 「おまえ、今なに考えてる?」 「っ」  途端、まさに見透かされたように問われて、カアッと理文は全身が熱くなるのを感じた。  ……今までだって、何度もいろんな男に「抱いて」とねだってきた。  なのに、なぜ彼にそう乞い求めるのは恥ずかしくてたまらなくて、どうしようもなくそれだけで興奮してしまうのだろう。  理文は頬を真っ赤に染めながら、なんとか顔をあげて目の前の彼に目をやった。見つめてくる哲の炙るような熱い眼差しに、彼も自分と同じくらいに興奮しているのに気づいて、ぞくりと身体の奥に甘い痺れが走る。  今きっと自分は、変態と罵られても仕方ないくらい、ものすごく淫らな顔をしている──。  分かっていたけれど、もう止められなかった。 「哲、おれ、おまえに抱かれたい。……おまえの、を、俺の中に、欲し……あっ」  最後まで言い終わる前に、理文は哲に押し倒されていた。  部屋の明かりが、なんて言う余裕もなく、唇を塞がれ、舌を奪われ、大きく足を開かされて、また下肢を手で擦られて高ぶらされる。先走りの蜜に濡れた指先が探るように、後ろの入り口を撫でてきて、理文は哲の強引さに必死にしがみついた。 「やっ、あきら、そこ、濡らし、て、……ぐさないと、入んない……っ」 「っ、濡らすって、どうやって」 「ローション、あるから……っ、あっ、なに、やだ!」  ベッドヘッドの棚に隠したローションのボトルに手を伸ばそうとした途端、哲の腕で腰を抱え上げられて、理文はベッドの上で四つん這いの体勢を取らされていた。恥ずかしさに、あっと力が抜けて、理文はそのままベッドに崩れるように縋りつく。  理文が手の伸ばした先を過たずに哲が当てて、棚からボトルを取り出した。 「っ、こんなもん常備してんじゃねえよ!」  軽蔑なのか嫉妬なのか、怒りに満ちた声が理文を詰る。  言い訳を口にする間もなく、冷たくとろりとした液体が腰のあたりにぶちまけられて、理文はびくびくっと身体を震わせた。 「……ぁっ!」  乱暴な手つきで下肢のふくらみを掴まれたかと思った瞬間、ずぷっと濡れた音を立てて後ろに指が押し入ってきて、思わず理文は息を詰める。  哲の節ばった太い指が、ローションの力を借りて身体の奥を突いてくる。その間にももう片方の手が理文の欲望そのものを擦りたて、揉みしだき、理文を翻弄した。  男同士の行為に慣れていない指先はどこか乱暴で、遠慮がなく、貪欲だった。 「ぁ、……あっ、そこ、っ、あ、い……っ」  本数を増やされた指で奥を突かれ、際限なく膨らんでいく欲望に無意識に理文が腰を小刻みに震わせた途端、呻くように哲が悪口を吐いた。 「くっそ……ッ」 「……んっ」  同時に身体の奥を犯していた指が抜かれて、理文は無意識に腰を揺らしている。  前から蜜を垂らし、後ろからローションが溢れて、ぽたぽたとシーツの上に淫らな液体がこぼれ落ちた。  足を開き、腰をあげてシーツにしがみついた淫らな体勢のまま、理文が背中を振り返って快感にとろけた眼差しを哲に向けると、彼は苦しそうに顔を歪めながら、張り詰めた自らの欲望をボクサーパンツから取り出していた。 「おい、ゴムないのか」 「そのままで、いい、から。哲の、生で──」  理文の誘いに応じて、哲が自分の手で擦りながらその先を、指が出ていったばかりの濡れた入り口に押し当てる。 「ふざけるなよ、エロすぎるだろ、おまえ! こんな、こんなんで、ずっと俺じゃない男にヤられて喜んでたのか!?」 「あ、あっ」  侮蔑するような言葉とともに、指とは異なる太くて硬い熱が身体に侵入してくる。ほぐし方が足りなかったのか、先端だけ入り込み、押し出されるようにそれが抜け出て、またぐっと押入ってくる感覚に、理文はぶるぶるっと身体を震わせて、たまらず声をあげていた。 「や、だめ、はいる、あきら、はいる……っ」 「バ、カッ、エロいこと言うなって」 「んんッ!」  勢いをつけて哲の欲望が理文を貫いた。  汗に濡れる額をシーツにこすりあてながら、はあっと理文は大きく息を吐き出す。同じように張り詰めた自らの欲望を理文の身体に収めた状況で、哲も肩で息をついていた。 「きっつ……ッ、……おい、痛くないのか、おまえ」 「ん、い……たく、ない」  本当は、彼とつながっている充溢感だけで腹の奥から響くような快感が身体を痺れさせて、自分から腰を振りたいくらい気持ちよかったが、口にできなかった。  気持ちいいなんて言えば、また詰られ、蔑まれる。  自分が清純でないことぐらい分かっている。何人もの男と関係してきた遊び人で淫乱で、そう知られていると分かっていても、彼に今そう思われるのは嫌だった。  だがそんな理文の気も知らず、哲は後ろから手を回して理文の下肢を掴んでくる。 「つーか、おまえ……後ろ、気持ちいいんだろ。さっきより硬くなってる」 「んっ、や、前さわるの、やだ」 「やだじゃないだろ。くそっ、おまえエロすぎ。……もっと早くこうすればよかった」 「っ」  熱っぽい囁きが耳をかすめたと思ったら、やがて後ろから抱きしめるように覆いかぶさってきながら、哲がゆっくりと腰を動かし始めた。 「ん、っ、ん、……っ、ん、あきら、もっ、と、奥……っ」  緩慢な抽挿で突き上げられるたび、理文は甘いねだり声をあげる。全身を揺さぶられるようにされて、欲しい箇所とは微妙に違うところを擦りあげられるのがもどかしく、シーツに爪をたてた。 「っ、おまえ、あんまり締めんな、って」 「だって……っ、あ、そこ、そこダメ……っ」  腰を掴まれ、角度を変えて奥を抉られ、瞬間まるで感電したかのように痺れが全身を貫き、たまらず理文は背中を逸らした。  そのポイントをすぐに理解した哲が、いっそう中を擦るように強く打ちつけてくる。硬く熱い塊にそこを突かれるたびに、ずんずんと身体の奥から熱い感覚がこみ上げて来て、さわられていないのに前が痛いくらいに昂り、解放を訴えった。 「や、っ、だめ、そんな、強いの……っ」 「っ、から! んなエロいこと言うな、って!」  怒ったような声に低くそう詰られた途端、ぐいと片足を持ち上げられて身体をよじられて、体位を変えてまた奥まで強く突き上げられた。後背位とは違って自分を犯す哲の姿が目に飛び込んできて、一気に全身が熱くなって、「ああっ」と理文は悲鳴のような声をあげた。  理文の足を抱え、汗を浮かべて腰を動かす彼の姿があまりにも扇情的だ。  彼が自分の身体を貪っていると思うだけで、ぎゅうっと身体の奥から切なさがこみ上げて、たまらなくなる。理文の反応が変わったのが分かったのか、哲も突き上げるスピードをあげてきて、奥を突かれると同時に、今まで感じたことのない昂りが全身を突き抜けていく。 「あ、やっ、うそ、うそっ、おれ、イク、イっちゃう……っ」  あ、あ、と悲鳴のような、泣き声のような掠れた声をあげて、理文はまた絶頂を迎えていた。 「きつ……っ、って、おまえ、イったの?」 「っ」  動きを止めてそれを指摘されても、すぐには反応を返せなかった。哲の欲望を受け入れた身体の奥がずっと甘く痺れていて、気持ちいいのが続いている。イッたんじゃない、イッてる。イッて、まだ欲して、奥がうごめく。うう、と理文は両腕を持ち上げて顔を隠した。  気持ちいいのに、ぎゅうっと胸が苦しくなった。  ドライで達してしまった。理文も初めてだったのに、こんな簡単に、しかも連続して達してしまうなんて、本当に淫乱の好きものみたいに見られるに違いない、と絶望的に思う。 「――理史?」  哲が訝しく名前を呼んだ。その途端に、身体に嵌った塊が中をかきまわすように動いて「ぁぁっ!」と抑えようもなく声が漏れた。 「だ、め、っ、いま、動かないで……っ」 「……クソ、おまえ、中すごい、締めつけて」 「ちが、ちが……っ、おれ、ぁ、あ、あ……っ」  言い訳しようとしても中をかきまわされ、穿たれて、身体は連続して絶頂を迎えてしまう。  どうしようもなく涙が零れてきた。  気持ちいい。気持ちいい。だけど嫌だ。こんな淫乱な身体、嫌だ。  哲の前だと自分でも嫌になるぐらい、なにもかもうまくいかない。好きなのに。ただ好きなのに。……こんなにも嫌われたくないのに。  溢れてくる涙を、顔を隠す腕でなんとか拭っていると、不意にその腕を哲の両手が掴んで、開かせた。身体の向きを変え、理文を仰向けに寝かせて、つなぎとめるように両腕をベッドに押しつける。その間にも哲の欲望は理文の奥を穿ったままで、つまりは正常位になる。  正面から足を開いて哲を受け入れている状況が、また理文の羞恥をかきたてた。 「あきら……これ、やだ」 「やだとかダメとかさっきからうるさいな。……本当に信じてないのはおまえの方だろ」  詰るように言われて、え、と理文は目を瞬かせた。  哲が足を抱えるように持ち上げて、それからゆっくりと正面から覆いかぶさってくる。ぐっとさらに奥に入ってくる感覚に、ぞくぞくと背筋を震わせながら、呆然と理文は彼を見返していると、そのまま哲の顔が近付いてきて唇にちゅっとふれるだけのキスを落としてきた。 「おまえがどんなでもどんなエロくても、嫌いになったりしない。本気で今までおまえと付き合った男にはものすごく腹が立つけど。おまえのエロいの、他の男に見られたのかと思うと死ぬほどムカつくけど。……そういうのずっと放っておいた俺が悪いんだから」 「あきら、でもそれは……ん」  言いかけた理文の反論を哲のキスが封じる。  とろりとやさしく舌が絡まってきて、たまらずうっとりと理文は目を閉じた。 「──もう二度と、他の男には渡さない。おまえの全部、俺だけのものだ。絶対に誰にも見せない、さわらせない、俺だけだ」 「ん、……ん」  キスの合間に低い声が囁く、熱っぽい独占欲に染められた告白に、ぞくぞくと理文は腰を震わせる。  嘘みたいだ。こんなの嘘みたいだ。  ──だけど、哲は嘘をつかない男だから。  腕を伸ばして首に取りすがるように、理文は哲の身体にぎゅっと抱きついた。 「……好き、あきら、好き」 「バカ理文。それは俺のセリフだろ。……好きだ、理文。好きだ。好きだ」  何度も何度も、耳に直接そう囁きこみながら、哲がまた腰を動かし始める。  熱い塊に内側を擦りあげられる感覚だけではなく、哲の甘く熱っぽい告白が理文の身体の奥からどうしようもない快感を呼び覚ましていく。 「あ、哲、あきら、い、……っ、だめ、あっ、おれ、またイク……っ」 「っと待て、俺も、イクから、理文、まだ待って」 「や、あ、そこ、そこだめ……っ」  お互いに求め合って抱きしめ合い、哲の硬い腹筋がそそり立った理文の欲望に擦れて、いっそう昂っていく。 「理文、俺、も、出る」 「俺もイク、あきら、イクっ、おねがい、もっ……ッ」  快感が腹の奥から突き上げてきて、理文は必死で哲にしがみついた。それを受け止めるように哲の腕が強く強く理文を抱き寄せる。  まるでもう二度と離れないかのように身体を重ね、その瞬間を迎えていた。
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