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戸張の決意と証拠
目覚めると、俺は戸張の腕の中で眠っていた。
「光輝、起きたのか?」
そっと俺の頬に触れる戸張の目が優しい。
「今、何時だ?」
目を擦りながら聞くと
「まだ3時過ぎだ」
戸張はそう答えると、俺の額にキスを落とす。
まるで恋人同士のような行動に戸惑っていると
「なぁ、光輝。俺はこの後、この家を出るつもりだ」
ポツリと呟いた戸張の言葉に疑問の視線を向けると
「お前、柘植光輝なんだろう?」
過去の名前を言われて、ハッと我に返り身体を起こすと、そんな俺を見て戸張は小さく笑い
「安心しろ。お前をゆすろうとか、思っちゃいない。俺はお前と出会って、本気でお前に惚れたんだ。一目惚れだった」
肩をすぼめて言うと
「だが、その時のお前には、既に恋人が居た」
宵闇の中、大切な思い出を語るように戸張が続けた。
「え?」
「俺はお前と、お前がまだ高校生だった頃に一度会っているんだ。……とはいえ、俺が一方的に見掛けただけだけどな」
そう言うと、戸張は飛び起きた俺の腕を掴んで再びベッドへと沈めた。
「その時のお前は、恋人しか見ちゃいなかったけどな。でも、幸せそうに笑うお前に一目惚れしたんだ」
戸張の言葉に、復讐が終わるまで忘れようとしていた宏との日々が走馬灯のように甦って来た。
『光輝』
優しく俺の名前を呼ぶ宏の声が……、笑顔が……甦るのに、温もりや肌の感触は忘れ去られてしまう。
それがとても悲しかった。
気付くと涙が溢れていたらしい。
戸張は俺の涙にキスを落とすと
「光輝、やっと素のお前に出会えた」
抱き締められて
「俺はずっと……お前に謝りたかった」
と呟いた。
「謝る?」
「あぁ……。俺の親が、お前の人生をぶち壊したんだろう?」
戸張の言葉に首を傾げると
「赤司と協力して、光輝の親父さんに偽の借金を負わせたのは……俺の両親だ。そうだろう?」
重い鉛を吐き出すかのように、戸張はそう言って項垂れた。
俺が目を見開くと
「うちが今、裕福なのも……お前の親父さんが負わされた借金があったからだ。それを知った時、本当にショックだった。」
暗い瞳で呟き
「だから俺が、あいつ等の金を使い込んでパーにしてやろうと企んだ。だけど……その金はお前の親父さんの金だと思ったらさ、結局、俺も共犯者じゃないかと気が付いたんだ」
一筋の涙が戸張の頬に流れて、俺の顔に落ちて来た。
「昭英……」
「俺は……ガキだったからさ、お前に出会うまで逆恨みしていたんだよ。お前やお前の両親も、赤司も……俺の両親も憎かった。だから、お前の学校の文化祭を調べて、その憎い面を拝みに行ったんだ。ようやく見付けたお前は、完璧な容姿に人を寄せ付けない鉄壁の笑顔を顔に貼り付けてたな……」
遠い瞳をした戸張はそう言うと、ゆっくり俺に視線を戻し
「だが、生徒会長だったお前の恋人が現れた瞬間、ふわりと優しい笑顔を浮かべたんだ。俺は……その笑顔に一目惚れしたんだ」
俺の頬に触れ、俺を見つめる瞳に熱がこもる。
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