幽霊列車と涙の別れ

除霊師・日高麗奈と助手

「幽霊は嫌だって！？　悪かったね、まったく」
　カナは猫をかぶるのをやめるといつものくだけた口調に戻った。初対面の時からこれなので、一時は治そうかとも考えたけど、いつの間にかこの話し方にも慣れ、友達ができたような気になって来たので、お客様が相手の時だけはネコをかぶるようにしてもらっている。
「そうは言っても、現実に被害が出てるんじゃ仕方ないじゃない」
「まあな。だけどああも嫌だってハッキリと言われちまうとムカつくな」
　とか言いながらも、棚から『ＴＲ北海道時刻表』を取り出してくれた。なんだかんだでしっかり助手してくれている。
　私は索引の地図を見ながら最近幽霊が出るという場所に印を付けていく。
　この路線は、札幌から北に向かって、桑園、八軒、新川、新琴似、太平、百合が原、篠路、拓北、あいの里教育大、あいの里公園、太美、当別、大学前の１４駅で構成されており、札幌からあいの里公園までは札幌市内、石狩川を渡って、太美から大学前は当別町内に所在する。

　印のついた場所は、ほとんどが当別－大学前間で、まれに太美－当別間。太美から札幌市内方向では今のところ確認されていない。時刻は夕方から夜にかけてが大半のようだ。
「これは明らかにここを狙っているか、でなければここから先に行けない存在のしわざ、か」
「確かにねー、まーここまで集中してれば、そう考えるしか無いかなー。……、大学前から先が廃線になってることが関係してるかも」
「廃線？　そういえばニュースでチラっとやってたわね。未練とかそういうのは幽霊退治で普通に聞くし、私も扱うけど……、そういう類(たぐい)かな？」
　調べてみると、２０２０年５月６日をもって、大学前から新十津川までの４７．６キロが廃止となっていた。まだ廃止から間も無いことを考えると、その未練が形となって現れることは十分に有り得る。
「明日、早速調べにいってみる必要がありそうね。夕方の列車でこのトラブルが多いみたいだから、その時間を狙っていきましょ」
「わかったよ、おばさん」
「だからおばさんって言わないの！」
「はーい、けど麗奈さんも歳取ってる自覚持ちなさいよ」
「歳を取らない貴女に言われたくないわよ！　さて、私は動画サイトでこの路線のことを調べてから寝るわね」
「お疲れさん、それじゃ、また明日ね」
　いつものたわいも無い！？　会話を交わして、次の日私たちは仕事へと向かうのでした。