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秋の夕暮れ、終点に向けて
翌日、札幌駅10番ホーム。
『16時、20分発、学園都市線、新琴似、篠路方面、大学前行、普通列車が発車いたします。まもなく、ドアが閉まりますから、ご注意ください』
6両編成の通勤電車は、夕方のラッシュ前ではあるのだが、立席が出るなどなかなかの混み具合である。
「さて、行ってみますか」
「そーね、現場百回って言うもんな」
カナと軽く会話を交わしたと同時に動き出した電車は高架橋を順調に進んで行く。窓の外には時折高層マンションが顔を出す住宅街。駅に止まるたび、少しずつ乗客が降りてゆく。それに反して乗る人は少なく、都心からベッドタウンへ人を運ぶ路線だと感じる。
新琴似駅を過ぎて高架橋を降りると一軒家が増え、郊外に来たんだなと思う。電車は順調に進み、住宅街の中から時折玉ねぎ畑が窓の外に見えるようになってきた。
「外ばかり見てるけどさー、まさか元カレ思い出してるんじゃないでしょーね。シルバーコード引っ張るの大変なんだからねー」
「今はそんな物思いにふけって無いって」
カナに話かけられてハッとした。実は私、以前日高本線の代行バスに乗っていた時、元カレを思い出しているうちに意識がそちらに遠のいてしまい、突然幽体離脱してしまったことがあった。その時、肉体と霊魂をつなぐシルバーコードをカナに引っ張ってもらって助けられたので、彼女は命の恩人でもあるのだ。
そういえば、昨日youtubeを見て気になることがあったことを思い出し、カナに話しておくことにした。
「あのあと、あしがらさんっていう鉄道系youtuberさんの動画を見てきづいたんだけど、この路線の大学前から先の廃止日は5月7日だけど、列車の運転は4月17日で終わっていたのよ」
鉄道関係の動画を見ることはあまりないが、あしがらさんは鉄道界隈ではかなり有名な人らしい。登録者数10万人を超えても会社員の傍らでyoutuberを続けていて、やわらかい語り口で人気の人だ。
そして、思い出した。私の遠い親戚でもある。顔出しをしているので、葬儀に顔を出していたのを覚えていたのだ。
「なんで? 鉄道の廃止ってのは、最後にパーッて盛り上がるもんじゃねえのかよ」
「それはね。新型コロナウイルスのせいよ」
世界的に爆発的な流行を見せたCOVID-19、2020年4月には日本でも緊急事態宣言が発令され、人同士が密着するイベントは特に自粛が求められた。
鉄道の廃線も、カナの言うとおりたくさんの人が来て盛り上がるイベントである。ところがTR北海道は新型コロナウイルス拡大防止の観点から人が集まるのを避けるため、4月16日の夜、列車の運行を17日で取り止めると発表。各種のイベントが計画されていたのも全て中止になってしまった。
「そんなことがあったのか。なんかせつない話だな。こりゃ幽霊列車が出ても不思議じゃねーぜ」
「そうね。気を引き締めて行きましょう」
あいの里教育大駅からは単線区間に入り、あいの里公園駅を過ぎると石狩川橋梁を渡って当別町に入る。その途端に列車はスピードを上げた。窓の外の景色は一気に変わり、駅周辺以外は水田の稲が実りを迎え、まるで金色のじゅうたんのようだ。
ここまで来ると乗客はほぼ全員座っているのだが、そこそこの混み具合であり、廃止とは無縁に見える。
「ここから幽霊列車の目撃が多いところね。注意して行きましょう」
「はーい」
太美駅を過ぎ、当別駅でほとんどの乗客が降車していった。ここから先の乗客は数えるほどで、終点にある大学に用事がある人と、廃止になった列車の代わりに走っているバスに乗り継ぐ人ぐらいで、さながら貸し切りの様相を呈してきた。
『次は、大学前、終点です』
いよいよ現場に到着と言うところで、事件は起きた。
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