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だが、そんな平穏な日々も長くは続かなかった。
「や、やめてください! お店をめちゃくちゃにしないでください!」
「うるせえ! 客にこんな辛っらいラーメンや酸っぱいラーメン食わせやがって! 何考えてんだこの店は!」
この辺り一帯を仕切る地上げ屋からの嫌がらせ行為が始まり、根も葉もない悪評を流されたおかげで店は一気に傾いたのだ。
「くそう……あいつら、この店を潰してデカいマンションをおっ建てようと企んでいるらしいな」
「卑怯な奴らめ……どうする、オヤジ!」
「どうするもこうするもねえや! あんな奴らに俺たちの店が潰されてたまるか!」
オヤジはそう息巻いたが、その途端に「ぶはあああ!!」と勢いよく血を吐いた。
「お、お父さん⁉︎ どうしたの、お父さん!」
背中をさする娘と、オロオロする山田に、オヤジは力なく微笑んだ。
「すまねえ……今まで黙っていたが、実は、俺の体はもうボロボロなんだ……。跡目は……お前に任せたぞ、山本……」
「山田だよ! そろそろ覚えてくれよオヤジ!」
俺はオヤジの手を握りしめて泣いた。悔し泣きだった。
「蕗のことを、頼んだぞ……」
「待ってくれ! いったい何の病気なんだよ……⁉︎」
「俺は……本当は……甘党なん……」
ガクッと首を垂れるオヤジ。甘党なのに激辛ラーメンを作り続けた今までの無理がたたったのだろう。あっけない最期だった。
「オヤジーーーーーーー!!!」
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