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「……というわけで、俺はどうしても明日の正午までに多額の金をこしらえて、蕗を救い出さなきゃならない。泣けるだろ? 真守」
「それよりお腹空いたんだけど、山本」
「山田だよ! 聞いてたのかよ人の話!」
「どうでもいいよ、山本」
ぐるぐるに縛られた誘拐の人質、平泉真守は山田の話を聞く間、ずーっと半目だった。
真守の目からは当然、涙など出ていない。
山田は語りながら床に涙でアメリカの五大湖を再現していたというのに。
「くそっ……なんて可愛げのない人質なんだ……」
敗北感に沈みながら、山田は仕方なく厨房に入った。
明日、ここは潰されるかもしれない。
これが最後のラーメンになるかもしれない。
感慨に耽りながら、山田はオヤジに教わった通りに湯切りをする。
ここで得たものは、白いTシャツに飛んだカレーうどんのシミより頑固に、山田の体に染み付いている。
いつのまにか涙がスープの中にポタポタとこぼれ落ちていた。
「お待ちどう!」
ロープをほどいてやり、ラーメンとレンゲスプーンと割り箸を目の前に置いてやると、真守少年はテンション低めに「いただきまーす」とレンゲでスープをすくった。
涙の山田が見守る中、熱々のスープが真守少年の口の中へと吸い込まれていく。
「辛っ!!!」
その瞬間、真守は泣いた。
「何故そこで泣く」
終
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