可愛くない人質の泣かせ方

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 可愛くないガキを(さら)ってきてしまった。 「ほら、泣けよ! お前が泣かなきゃイタズラだと思われて相手にされねえじゃねえか!」  固定電話の受話器を上げて、山田清は足元の少年を睨んだ。   廃業寸前のラーメン屋の床に、ロープでぐるぐると何重にも縛られている少年。彼は「そんなの僕には関係ないよ」という言葉を要約するかのようにため息をついた。  少年の靴はピカピカの革靴で、着ている服ラフなものだが全身ブランドのロゴ入りだ。  年齢は10歳前後。おそらく小学校の高学年だと思われる。  少年が一人でゲームセンターで遊んでいるのを見た時、山田は衝動的に声をかけてしまっていた。なにしろ少年は一万円札を平気で両替機に突っ込み、ジャラジャラと音の鳴る大量のメダルへと惜しみもなく変換し、それをジャックポットというメダルゲームに次々とゴミのように投棄していったのだ。  金が余っている人間の遊び方だとピンときた。  一方、山田には金がない。  大金を狙って全財産をかけた競馬で有り金のほとんどを失い、ヤケクソになってゲームセンターにたどり着いたところだったのだ。  夢も希望も失いかけた、切羽詰まったこの状況で少年に出会ったことを、山田は運命だと思うしかなかった。  ついて来いと脅すと、少年は「誘拐?」と冷めた目で聞き返した。  そして何故かすんなりとついて来て、おとなしく縛り上げられた。攫ってきた山田が拍子抜けするほどだった。 「お前なあ、俺が怖くないのか? お前の親が金を出さねえと言ったらお前を殺すかもしれないぞ!」  山田が厨房から出刃包丁を取り出して見せても、少年は全く臆さなかった。 「いいよ、別に。どうせ僕なんか……いなくなった方がいいんだ」  死んだ魚のような目で呟く少年。山田は仕方なく受話器を固定電話に戻し、カウンター席に腰を下ろした。 「どうした坊主。何があったんだ? おじさんに話してみろ」  
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