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 ひとり暮らしで親の目を気にしなくて良いから、金は無かったものの日比野に誘われるがままに、夜の街へと繰り出すようになった。初めてナイトクラブに連れて行かれたときには、緊張のあまり酒を飲み過ぎて酔い潰れてしまい、日比野に介抱されて家まで送ってもらう醜態を演じてしまった。日比野はさぞかし呆れただろうと思っていたが、しばらくするとまた声を掛けてきたので、彼が何を考えているのか芳賀にはまったくわからなかった。女の子の気を引くための引き立て役なのだろうかと分析してみたが、日比野はどの角度から見ても単独で光り輝いており、姿形だけでなく話術でも人を集めることができたから、芳賀がその場にいる意味が見出せなかった。  とはいえ、日比野に引き寄せられた女の子たちと多少は会話することができたので、芳賀としてはじゅうぶんに楽しめたし、あわよくば「お持ち帰り」ができたのである。 「あたしたち、N**女子大なんですけど、ふたりはどこの大学なんですか?」 「俺たちはK**大学だよ」 「ええ~、K**大のひともこんなところ来るんだあ」 「遊んでる奴けっこういるよ。なあ芳賀」 「うん、まあ」 「もう、芳賀さんもなにか喋って」 「こいつはそこがいいんだよ。朴訥な武士みたいだろ」 「ぼくとつ……って何?」 「寡黙で飾り気がないってこと。チャラチャラしてる俺とは正反対だね」 「そんなことないですよお」  日比野は遊び人を演じているが、やはり隠しきれない品の良さが滲み出ていた。自分に自信があるから、来る者拒まず去る者追わずの姿勢で、容姿に難があるようなグループが近づいてきても愛想良く接していた。それでいて、その日その店で一番の美人を連れて店を後にするのだから、大学生にして人心掌握術を心得ているとしかいいようがない。  そればかりか、 「君は背が高い男が好きなの?」 「そうですね~、高い方がいいかな」 「じゃあこいつ、185あるから。口下手だけど良い奴だよ」  などと意中の相手の連れを上手いこと芳賀に押しつけて、タクシーで何処かへ行ってしまう。残された芳賀と女の子は苦笑して別れることがほとんどだったが、たまに勢いでホテルかどちらかの自宅で一夜を過ごした。ほとんどはその場限りの関係で、ひとりだけその後も何回か会った短大生がいたが、それも音信不通になってしまった。  それは日比野も同じらしかったが、彼の容姿や能力であれば、あんなところで手に入る軽い女ではなく、もっと釣り合う相手がいくらでも近づいて来るはずだ。わざとそういう相手を避けているのかもしれなかった。
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