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「日比野の紹介でこうしてお会いできたのですが、彼とはどういう?」  芳賀の問いに、未央はちょっと頬を赤らめた。 「(ゆう)(すけ)さんには父がお世話になっている関係で子供の頃から良くして貰っているんです」 「そうなんですか。支社長のお嬢さんじゃ、僕みたいな普通の家庭で育った者では釣り合わないのではと何度も言ったんですけどね」 「支社長と言っても雇われですし、そこまで裕福というわけでもないんですよ」 「梶井商事ではどんなお仕事をされているんですか」 「経理です」 「何年くらいやられてるんですか」 「入社してからずっとだから……3年ちょっとですね。一応簿記2級も取りました」  ずけずけした質問にも、未央はあっさりと答えていたが、 「なんだか転職の面接を受けてるみたい」 と笑い出した。 「すみません、変なことばかり訊いて」  日比野にはこんなことを話せと指示されたような記憶があるがみんな忘れてしまった。未央には気の毒だが、その気がないのが透けてしまっているだろう。  これ以上なにを訊ねたら良いかわからなくなり、芳賀は必死で言葉を探した。まだタルトも胡瓜のサンドイッチも手をつけていないのに、はいさようならというのは未央だけでなくその父親である支社長に対しても失礼極まりない。そればかりか日比野の顔を潰すことにもなる。義理を立てるために座り続けているようなものだった。  未央はスコーンにクリームをのせて美味しそうに食べ、紅茶を一口飲んでから顔を上げた。 「もしかして、祐弼さんに無理矢理言われていらっしゃったんじゃないですか」 「……」 「やっぱりそうなんですね」 「……すみません」  未央はやさしい顔になった。 「いいんです。わたしも同じですから」  ふたりは黙って菓子を口に運んだ。他の客の話し声と食器がぶつかるかすかな音が耳に流れ込んでくる。 「あいつ、なにを考えているんですかね」 「さあ、わたしも言ったんです。まだ26だし、お付き合いする相手は自分で決めますって。そうしたら、お前は女子校育ちで世間知らずだから危なっかしいって……」 「随分ですね。あいつなんて幼稚園から大学までエスカレーターだった癖に」 「それが、自分は学生時代にかなり遊んだから人を見る目はあるんですって」  それならば、10も年の離れている自分を未央に引き合わせたのもなにか意味があるのだろうか。 「まるで妹みたいですね。あいつはひとりっ子だから、本気でそう思っているのかもしれないな」  未央は目を丸くしたが、そ知らぬ顔になると 「かもしれませんね」 と言って胡瓜のサンドイッチを芳賀に勧めた。
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