A true blessing 天からの贈り者「六田亜矢子女医 29才が見た白昼夢」の続き、後半34-2からになります。

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59.   不妊を隠されていたことで、俺たち夫婦の間に小さな 溝ができた。   その溝が埋まることはなかった。     俺が子供に拘らなければできなかったモノなのかも しれない。  しかし、目覚めてしまった感情はどうすることもできなかった。  子供、子供・・俺は自分でも分からないんだな、これが。  亜矢子と離婚する時だって息子のことなど微塵も責任や 感傷なんてものに心動かされることはなかった。  それが子供が欲しい、育てて慈しみたい、そんな感情が 芽生えてしまった俺には不妊を黙って結婚した再婚相手を 許すことができなかった。  過去は・・自ら捨て去ってしまった過去は戻ってこない。  そんなことは百も承知。  子供以外のことでは仲良く楽しく暮らしていたのに再婚 相手の景子をどうしても許せない自分。  渡米先でそんなごちゃまぜの訳分からん状態のカオスの 中にいた俺は、離婚後亜矢子に会うのが怖くて日本に 帰国できず、10年余りをここ米国で過ごして来た。  再婚相手の景子とも別れてしまった。  こちらでもう一度結婚相手を・・と思わなくもなかった けれど如何せんここは異国で、おいそれと同国のお相手が 見付かるはずもなく今だシングルだ。  亜矢子と真樹夫はどうしているだろうか。  ふたりの生活をずっと続けているのだろうか。  帰国を前に矢も盾もたまらず真樹夫に連絡を してしまった。  真樹夫とは親子なのだからいつでも会いに来て、と言って くれていた亜矢子は一度も会いに行かなかった俺なのに 真樹夫にスマホを持たせた時から俺がいつでも連絡取れる ようにと真樹夫のアドレスを送ってくれていた。    一度も会いに行かず、一度もメールすらしたことのなかった 自分。  果たして連絡が・・返事が・・息子から来るのだろうか。  メールを送ったものの、連絡の来ない数日間、胸をドキドキ させながらあるか無いかの返信を待っていた。  
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