カードバトラー・ケツイが戦う社会! 不況を倒せ!

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カードバトラー・ケツイが戦う社会! 不況を倒せ!

「成金欠威、これがお前の解雇通知だ。離職票は欲しけりゃ人事部に行け」 「なんで正社員の僕がリストラ対象なんですか! もっと使えない非正規切らない理由を原稿用紙20枚以内で述べてください!」 「基本お前邪魔だから」  この高学歴課長め! 帰宅路で誰かに後頭部をやんわり殴られちまえ! 「今も邪魔だから早く荷物まとめてくれな」  不況が悪い! この企業が憎い! 課長も憎い! 総務のリョウコちゃんだけ残して全世界よ爆散しろ! 「あの……私、彼氏いるんで……」  卒業式に告ったら大体OKっていうのが普通だろ! なんでだよリョウコちゃん! 僕は定期口座解約して持参金にしてるんだぞ! 「ごめんなさい、35万円で買われるような人生送ってないので……」 「わ、わかった! あと5万出すから!」 「……」  チックショウ! 奮発して買った2万円のアタッシュケースに入っている離職票と35万円がずっしりと重いぜ! 「でも僕なら引く手あまただ! だって僕は有能だからな! パソコンの扱いだって熟達してる! 18禁サイトの閲覧履歴だって消せるからな!」 「……力が欲しいか?」  誰だ! 僕の自画自賛を邪魔するのは! クソッ! 昼間のビル街で水晶玉を投げつけてくるな! 無傷で受け止めて質屋に入れるぞ! 「お前さんにはどうも力が足りない。ワシがそれを与えてやろうというのだ」 「まさか婆さん、良い人か!」 「そうかもしれんの。この時間帯にオフィス街から風俗街に向かうなど、足らぬ者ばかりよ。ワシはそのような人間に手助けをすることを生業としておる」  それから僕は『マジック・ザ・シャドウ・キング』、通称マザシギのデッキを与えられて、感謝のあまり10万円を笑顔で支払ったぜ! 僕は善意には金で返す男なんだ! 「毎度あり……」  翌日、僕は平日昼間のマザシギセンターに行ったんだ! 「こちらはマザシギセンターです。手持ちのデッキを回復させますか?」 「回復はいらない! このデッキをどう使えばいいのか教えてくれ!」 「それでしたらバトルスペースへどうぞ。右手奥にございます」  チップに5万払うとお姉さんの手が触れて、恋の予感がしたぞ! マザシギサイコーだな! 「連絡先は後で渡すよ!」 「……」  お姉さんが会釈をしてから手をアルコール除菌をしてるな! 僕の匂いを他の女に嗅がせないためだ! そう思うだろ? あんたも! 「俺のターン、ドロー! マジックカード『強奪』! 負けたらお前の高校受験の受験票を絶対に奪いに行ってやる!」 「降参しますからもう関わらないでくれますか?」  モジャモジャ髪の中年手前の男が中学生を倒したぞ! なんてことだ、僕みたいな年齢でもバトルしてるのか! 「僕にもバトルの仕方を教えてくれよ!」  手近でちょろそうなガキの首をふん捕まえて僕は叫んだ! 「おじ……お兄さん? もバトラーなの?」 「昨日なったばかりだ! よろしくな!」  人差し指を中指を揃えて額からピッと星を飛ばす! これでみんな僕のお願いを聞くもんさ! あと2万円渡したぞ! 「おい、そこにリーマン崩れっぽいおっさん! ステージ上がれよ! 俺とバトルだ!」 「なんだと! 僕はリーマン崩れだが、おっさんは許さん!」  アタッシュケースからデッキを取り出して、僕はステージに上がったぞ! 【バトルスタンバイ】 「まさか初心者か! 俺は剛力拳、この街で一番強えバトラーさ!」 「僕は成金欠威! この街で一番……一番……一番の男前さ!」 「ならまずはデッキから6枚引けよ、おっさん!」  僕は素直な男だからその通りにしたぞ! 「よし、6枚引いたな! ルール違反でダイレクトアタックだ!」 「出たよ、ケンおじちゃんの初心者狩り」  僕はガキの言葉を耳に聞きながら、繰り出された拳をアタッシュケースで防御する! 「クッ! それがケツイ、お前のスタイルか! さしずめ、エリート志向デッキの使い手!」 「ケン! これはそういうゲームなんだな!」 「これはバトルだ! 全てをかけて戦う、みんなのセレナーデ!」  チクショウ! よくわからない音楽用語を使われたら僕には気の利いた返しができない! 「そして、これでフィナーレだ! じゃあな、ケツイ!」  僕はその瞬間、ひしゃげたアタッシュケースから1枚の紙を取り上げた! 「離職票ガード!」 「!!!」  これは企業勤めをしていた人間にのみ与えられる、失業保険を受け取れる最強のカードだ! こんな無職みたいなクソダサパーカー黒ずくめに負けてられない! 「これさえあれば僕は、僕はまだのし上がれるんだーッ!」 「申し訳ありませんが、両名とも出入り禁止とさせていただきます」  バトルの途中で割って入ったのは、受付のお姉さんだ! これはみんなの目があるところでは恥ずかしいから店の外で会おうってことだな! そう思うだろ? あんたも! 「次回以降は来店の際には警察を呼びますので」  ストーカーを気にしてるのか? 可哀想な鈴原凜子ちゃん! 名札はいただいたぞ! 「ケツイ、お前才能あるぜ!」 「本当かよケン! 僕にバトラーの資質が!」 「ああ、俺の目は曇っているが狂いはない! その力、世界を救うために使えよ!」  それから僕らは駅前の居酒屋で発泡酒をしこたま飲んだんだ! こんな出会いができるなんて、サイコーだぜ! マザシギ!  翌日、僕は二日酔いの頭を抱えてマザシギセンターに向かった! 「凜子ちゃん、会いにきたよ!」  なんか電話してるけど、実家に結婚の報告でもするつもりかな? 気が早いぞ♡ 「ちょっと、お話聞けるかな」  国家権力の犬! 喰らえ、不況に最高の清涼剤! マネー・オブ・ジャパニーズ! 「買収できるような額でもないよね」  チックショー! まだまだ世界にはまだ見ぬ強敵がいるってことか! 僕は負けないぞ!
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