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カードバトラー・マイケルが地を踏み締める!
ボク? ボクかい? 真池ルシア、as know asマイケルさ。そんなボクが平日昼間の本屋で何をしているかって? 教えてあげるよ、フフッヒ。
「ボクは世界サイコーのダンサーになる。いや、あるいは既にサイコーすぎて誰にも理解できない領域にいるのさ」
そんなわけでまずはセルフブランディングを学ぶために自己啓発本を見繕っているってわけ。わかった?
わかったら一緒にシャウトしてくれよ。せーの、でいくよ?
「ポゥ!」
「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので」
「Ah... すまないすまない」
そう言ってハットを押さえて片膝を出してポーズ。こうすれば一般ピーポー全てボクの虜。5分もじっとしていれば卒倒者続出、10分でその余波は隣村まで伝わってお婆さんが産気づく。
「お願いいたしますね」
「ところで、買いたい物があるんだ。This, this, and this.」
資金は父さんから樋口一葉と沖縄の守礼門を1枚ずつもらってるからね。これぐらい屁でもないさ。
「レジはあちらですが……」
結局ボクは機嫌を損ねられてそこを後にすることにした。まったく、サービスの質が落ちたんじゃないか、この国は?
プンスカモードでブラックかホワイトの床を歩いていると、無料の求人誌コーナーで騒ぐ男が2人。客層の質も落ちたな。この本屋はビニ本もないし二度と来ないぞ。
「おい、ケン! この求人見ろよ! 笑顔の絶えないアットホームな職場の求人だ!」
「マジかよ! 今時まだ存在してたんだな! 写真撮ろうぜ!」
「お客様」
「僕も写っていいだろ! 撮ってくれよ!」
「snowで加工するから待ってろよ!」
「お客様、店内で無断に写真を撮られると困ります」
「TikTokにもアップしよう!」
「バズるな、これ! ケツイ、俺も撮ってくれ!」
「お客様、業務妨害です」
「わかったよ! 僕が場所代を払えばいいんだろ!」
そう言ってリーマン崩れっぽいおっさんが革靴の中から湿った万札を抜き取って女性店員の顔に押し付けた。それをボクが見てどう思ったか?
デンジャラス! そう思ったんだ! まるで貴族が決闘を挑む時に手袋で平手打ちするみたいだったんだよ!
「ポゥ!」
参ったね! ボクは興奮すると思わず叫んでしまうんだ!
警備員の詰所の前で3時間待機すると、2人が出てきて勝ち誇った顔をしてるんだ。スリラーだよね。
「君たち、なんでそんなに嬉しそうなんだい?」
「誰だよお前! まあいいや、俺は剛力拳! こいつはダチのバトラー、成金欠威だ! 通称マザシギで戦う強えヤツだぜ!」
「なるほど……」
質問にまともに返せない脳みそをしてるんだね。これはダメだ。ダメだ。本当に本当にダメだ。(Bad. Bad. Rearlly rearlly bad.)
「それで、どうして──」
「ケン、それより早く高校生を狩りに行こうよ! 今なら下校時間に間に合う!」
ボクは答えを知るために2人の後をつけることにしたんだ。
「僕のターン、ドロー! エナジーカード『社畜の波動』! そして、ダイレクトアタック『竜巻旋風客』!」
「出たー! さっきの本屋での出来事をすぐに活かすそのセンス、さすがだぜッ!」
ボクは駅のロータリー前で凄まじい様を見た! 2人はなんと無抵抗の眼鏡をかけた細い低身長の男子ばかりを狙ってバトルとやらを仕掛けていたんだ!
「ポゥ!」
こんなのは許されない! ボクはそこで真っ直ぐにアースウォークで向かう!
後ろ向きでツイツイ歩くムーンウォークはボクの性に合わない! 難しいからじゃない! 前を向いて歩く、これがボクの信念だからだ! 難しいからじゃない! 決して!
「やめないか! 君たち恥ずかしくないのか!」
「なんだ! 尾行してたのか! 油断も隙もねえな!」
「隙あり!」
ケツイとやらがケンに膝カックンを仕掛けた! 隙だらけの振る舞いにボクは何故か激昂のシャウト!
「そのバトルってやつにボクが応じる! その子を解放するんだ!」
「いいぜ! ならデッキを出せよ! バトルしようぜマザシギバトル!」
「そんなことよりダンスで勝負だ!」
「空気を読めよ!」
こいつらに空気云々を語られたとあっては真池家の名折れ! やってやろうじゃないか!
【バトルスタンバイ】
「お前に貸したのは初心者向けのデッキだ! まずは手札に6枚引け!」
「……君、今ウソ吐いたね?」
「ああ、ウソだぜ! なんでバレたんだ!」
「ウソを吐いた瞬間からTシャツの脇から水流が迸っているじゃないか。脇汗かい?」
「しまった! 汗ワキパッドが今日は3枚しか着けてられていないんだ!」
ケンの言葉にケツイが驚嘆する。
「いつもの1割じゃないか! 大丈夫なのか、ケン!」
「ああ、大丈夫だぜ! 洗濯するのは母さんだしな!」
「このパラサイトシングルめ!」
ボクはようやく手札を引いて、ポーズを決めた。
「成☆敗☆だ!」
「ルールも知らない素人が何を言いやがる!」
「さっきの振る舞いで理解したさ、これはそういう勝負なんだろう! 1枚デッキから引いて、床にカードを叩きつけ、ボクはバトラーにダイレクトアタック! 『スピード・デーモン』!」
50m走9秒3のボクのダッシュパンチが炸裂──しない⁉︎
拳の先にはケンではなくケツイの顔がある!
「努力! 友情! そして!」
ケンが気絶したケツイを捨てて叫んでいる! これはまずい!
「勝利だーッ!」
ボクはとっさにポケットの中の鏡を取り出して前髪を整えてからもじゃもじゃ頭の頭突きを受けてしまった!
「へぶしっ!」
「まだだ、まだ終わってなぁい!」
頭突きは連続する! これでは気絶してしまう! とっさに鏡を取り出してキメ顔を確認してから相手の顔の前に手を出して防御!
「!!!」
攻撃が止んだ? 何が起きたんだい?
「俺に鏡を向けるな! そんな男の姿を見せるな!」
「まさか、効いてる?」
「ケンは過度の鏡嫌いでその理由は概ね小学生時代に自分がイケメンだと思って授業中によく覗き込んでいたらクラスの女子にからかわれて拳でモノを言ったら真正面から『ブサイク』と罵られたことと関係があるらしいけど諸説あるんだ!(早口」
寝言でケツイの呟く入り、理解した! なるほど、そういうことか! ならこの機を逃す手はない!
そう、この技には名前が必要だ! 相応しく、雄々しく、優しく、愛しさと切なさと心強さのある名前が!
「トドメだ! 『マン・イン・ザ・ミラー』!」
「グワァァッ!」
トラウマ感じている あなたへと向かって!
T.K.O!
Tetsuya
Komuro
Otokomae
「や、やるじゃないか! ここまで追い詰められたのは4時間ぶりだぜ!」
「ボクが、勝ったんだな?」
「ああ、お前の勝ちだ! 負けた悔しさは震えるほどだけど、握り拳を解いて、ズボンで汗拭き、握手しようぜ!」
「それは断る」
でもケンは脇から噴き出す汗を滴らせた手でボクの手を握りしめてくるから、本気でリーヴ・ミー・アローンだ。
「……お前女の子だったのか! しかもJKだろ!」
「!!!」
「JK⁉︎ ケン、今JKって言ったか⁉︎」
ウソだろ! 今日はさらしもキツめに……!
「この手触り、指の細さ、小振りな爪、確かにJKのそれだぜ!」
クソッ! このままだとまたナメられて──
「JKでもこんな強え奴がいたんだな! 侮ってたぜ! お前、サイコーのバトラーになれるぜ!」
えっ。トゥンク。
「名前と住所と好きなタイプを教えてくれよ!」
「ボ、ボクは真池ルシア……」
あまりの事態にボクはキメポーズで答えていた! OMG!
「その名前、ハーフか! かっけえな!」
「う、うん。大分県民と京都府民のハーフ……」
「JKの掌触らせてくれ──グブファッ!」
ケツイの顔面にキレッキレのハイキックをしてから、ボクは顔が熱くなるのを感じている! どういうことだ!?
「ルシア! また一緒にバトルしてくれよな!」
ボクは手を伝う脇汗に動揺しつつも、静かに感動していた。ボクを女だとか女子高生だとか読モみたいだとか宝塚の男役だとか言わないメンズは初めて会ったんだ。
「またやろうぜ! ルシア!」
ボクは気絶したケツイの腹を踏みつけながら、静かに頷いた。これが、ボクのバトラーとしての目覚めだった。
「剛力拳、か」
この世界にはまだまだボクの知らない人種がいる。会うんだ、大地を踏み締めて。自慢のアースウォークで。
帰宅後、ボクは過激派女性権利保護団体『ハー・シェパード』を脱退した。もっと面白いものを見つけてしまったんだ。
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