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逆上がり
――学校終わりにすぐ鉄棒に向う、キキョウは鉄棒の角の方に座り肩を落していた。
「あ、キキョウいた」
振り向いた彼女は「あ······」と目は合わせられず何を答えればいいのか、それ察して彼はランドセルを降ろし鉄棒を握る。
「よ――だめだ。よっ」何度も繰り返す。黙々と練習する姿、結して弱音を吐かず前向きな努に、
「ごめんね······私じゃなければ」
分からない事だらけの自分、悩んでる子の悩みも解決出来ない妖精、やっぱりに私は。
「またおちこんでる」
「え?」
「じぶんのことばっかり、ちょっとは見ててよ〜」
「う、うん、ごめん」
『自分の事ばかり』その言葉に何故か響く。自身は努の事を考えてるはず、なのにどうしてかそうじゃないのかもと感じる。
繰り返す彼の鉄棒を落ち着いて見てみると、変わらず失敗していることに他の生徒と何かが違う様な気がした。
自然にじっと集中してきたキキョウは、
「つ、努君、ちょっといいかな」
「え、なになに」笑顔で期待する彼に怯えたが深呼吸して説明する。
「ここまで蹴り上げられないかな?」
それは鉄棒する彼の真上、観ていて彼の足は斜めになっていた事に気が付く。
「うん、わかった」
しかし、
「しっぱいしちゃった」でも、
「う〜ん、真上になってない」落ち込まず、なっていない事を指摘するキキョウ。回ると彼女が見えずよく分からなくなると言う努に彼女は閃く、
「ここに居るから狙って」
「えーっ、いいの?」
彼女が真上に浮いて自分に向かって蹴って貰う事にしたのだった。
「だいじょうぶなの?」
「大丈夫、構えてるから。さぁやってみて」
心配しながらもさっきと雰囲気が変わったキキョウを信じて言われた通りにする事に、
「ねらって······いくよ」
「うん」両手を顔の近くで構え、
「ふんっ!」
「キャッ」靴に当たり少し飛ばされたが耐えた。
努は、キキョウ〜と呼び掛けた姿は鉄棒に逆さまにぶら下がっていたのだ。
「あ〜、おしぃ〜」
後もう少し回転が掛かっていれば逆上がりが出来ていた。
「おしかったね」
「うん、でもなんかわかった気がする!」
少し興奮気味の努は再び逆上がりを挑戦した2回目、
鉄棒を握り勢いを付け思いっ切り蹴り上げる。伸びた左足が綺麗な円を描き、着地した。
「やった、できた!」
「うんっ、すごい、おめでとう」
「ありがとうキキョウ」
喜びながら3回くらい試すがしっかり出来ている。この年頃の子はホント飲み込みが早いと思う中、奇妙な事に彼にはまだ自分が見えているのに気が付く。
「努君」
「ん、なに?」
「私のこと、見えてるよね?」
見えてるよ、と返されおかしいと思うが答えは1つしかない。
きっと彼の悩みは鉄棒ではないのだ。
「ねぇキキョウってこのあとどうするの?」
昨日はあれからずっとがっくりしていてたまに夜空を飛んだり、近くの木の枝に座ったりして悩みながら過ごしていたのだが、
「うちきてよ」
「え、う〜ん」
このままここにいても何も起こらないし、彼の家に行けば悩みが分かるかもしれない。
「う、うん分かった、行く――」
「へ〜、ようせいってたくさんいるんだね」
「うん、ちょっとお調子者の妖精とか落ち着いたお姉さんみたいな妖精とか」
努の家は学校から歩いて20分位なので、その間はキキョウに色々と質問をしていが彼女は悪い気はしなかった。自然と話しているうちに気持ちが楽になっていて暖かいほっこりとした気持ちでいたから。
玄関に入ると目の先に階段があり上ったすぐの所が努の部屋。特に汚れておらず机も整理されている。そこにランドセルを置き彼はゲーム機を持ってきて、「やろー」と言って来たのでオドオドしながら一緒に遊ぶ。
色々なゲームをやる中でディスクを変えている時だった。
「おかあさんいないから、キキョウがきてくれてよかった」
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