人見知りの妖精と鉄棒をする少年

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人見知りの妖精と鉄棒をする少年

 妖精、それは困っていたり悩んだりしてる人達にちょっと手を差し伸べる。そんな生き物、なのだが、「はぁ······」と木の影に隠れてため息をする青みを帯びた紫の妖精がいた。 「なにを話せばいいんだろ」  彼女は話すのが苦手で人見知り。いや、この場合妖精見知りか。そんな事だから自分から話せず近くの学校の登校から下校までずっと隠れて話しかけられずにいたという。勿論いつまでもそうではいけないと夕方、鉄棒を1人練習している小学生に勇気を振り絞り近づいて見ることにした。  実はこの小学生は休み時間にも真っ先に練習してた事もあり面識があった。なので恐るおそる近づいて隣の鉄棒まで来た時、男の子が逆上がりを挑戦し失敗すると何かを感じたのか突然くるっと妖精の方を振り向いた。 「はうっ!」  互いに目が合うが妖精は顔が引きつりその場で硬直しどうすれば良いのか分からず汗まみれ、だが男の子は、 「キミなに?」 「わっ、わた、しは、その······妖、精」 「ようせい」何のこっちゃという顔をしてすぐ、 「うわー、かわいい!」と興奮と笑顔で近づくが思わず妖精は離れてしまう。 「どうしてはなれるの?」  鉄棒の柱に隠れながら、 「······な、悩みない?」  するとすぐ、 「てつぼうおしえて」 「······鉄棒、な、何がしたいの?」 「さか上がり」小学生にはよくある悩みだった。  その後、彼が帰るまで逆上がりの挑戦は続くが一度も出来ずに終わる。  日も沈みかけ、 「あ、ようせいさんボクかえるね」 「う、うん」  結局この日は彼女が逆上がりの事をよく知らないためアドバイスをしてあげられずに終わる。 「ご、ごめんね。アドバイス、出来なくて」 「いいよ、じぶんでやれなきゃいけないし」  ケロッとしている彼を見て立派な小学生と思う。 「ねぇ、ようせいさんってなまえないの?」  頭がいっぱいいっぱいですっかり名乗るのも忘れていた。 「わ、私は、キ、キキョウ」 「ボクつとむ、キキョウってなんかお花のなまえみたい。じゃまたね」 「う、うん、また」  手を振り見送るキキョウは努の姿が見えなくなると、 「はぁーっ」緊張の糸が切れどっと疲れた。  自分でもこれで良かったのか、逆上がりを無事成功させる事は出来るのか不安を感じながら鉄棒に寝そべり何処か癒やされる夕闇。  ――ヒュるると飛びながらキキョウは他の生徒達の逆上がりを見て研究していた。  努は特に太っている訳でもないし運動が苦手とは感じない、コツを掴めばいけるかもと考えたと同時に、『私じゃなくてもいい』そんな気持ちになってしまう。自分よりフレンドリーで頭の良い妖精は沢山いるのに、だから自分は。 「――ねぇ、キキョウ」はっと気付く、 「ご、ごめん、なに?」  太陽あたるお昼休み、小学1年の努は給食を食べたあとに鉄棒でキキョウの元に来ていた。 「さか上がり、おしえて」 「そ、そうだった、えっと〜、勢いを付けたら出来る、かも······」 「いきおい? わかった」  自信無さ気なキキョウに言われた通りにしてみたが、 「ふんっ·······あれ、できない」  2、3回繰り返すがやはり失敗。 「そ、そんな、だって皆勢いよく」眉尻が下がり動揺する彼女はやっぱり自分ではと酷く落ち込む。  そんな姿を見ていた努は再び逆上がりの練習を始めだす。 「ご、ごめんなさい、私」 「ボク、キキョウがいったとおりやるからわかったらおしえて······ねぇキキョウってば」 「あ、ご、ごめんなさい」  彼女の顔はまるでオバケを怖がる人のよう、 「だいじょうぶ? ボク気にしてないよ」  努がそう言うとチャイムが鳴り、 「チャイムだ、ボクもどるね。またね」お昼休みは成功せずに終わった。  1人その場で落ち込んでいるキキョウ、 「······私どうすればいいか分からないよ」
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