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12月18日(月) 菜月
とりあえず、この世に降りてきた。私は天の番人によって家の自分の部屋に降ろされたようだ。今は夜中。外は真っ暗だし、何もできない。とりあえず、自分の部屋を見てみる。たしかに健太に買ったはずのお菓子の詰め合わせはない。本当に12月11日でこの部屋も止まっているのかもしれない。自分の部屋を出て静かにリビングに行った。テーブルの上はびっくりするくらいに散らかっている。キッチンにはコンビニのお弁当のゴミが置いてある。お母さんは普段はコンビニ弁当なんて食べない人なのに…。隣の和室に入ってハッとした。そこには私の遺影と骨壺が置いてあった。私は本当に死んだんだ…。遺影の周りには花やお菓子などがたくさん置かれている。急に涙がこみ上げてきて慌てて部屋に戻った。部屋に戻ると声を押し殺して泣いた。
眩しくて目が覚めた。起きると部屋のベッドにいた。夜中に泣き疲れて寝てしまったらしい。時計は8時を指している。もう、学校に行く必要もないので焦ることもない。1階からはいい匂いがする。そういえばお腹も空いてないなぁ。幽霊はご飯食べないもんなぁ。そんなことを思いながら、1階を覗きに行くことにした。テーブルにはお茶碗、お味噌汁の入ったお椀、納豆がそれぞれ2つずつある。お箸も2膳ある。私の分だ…。胸が締め付けられる。お母さんは私の分のお茶碗にもご飯をよそうと遺影の前に持っていった。
「菜月、ご飯よ。」
そう言って私の遺影の前に置いている。
「あとね、昨日有紗ちゃんが来てくれたわよ。」
そう言って遺影の前のアルバムを持ち上げる。お母さんはアルバムを開けて1ページ1ページ私の遺影に見せながら語りかけ始めた。
びっくり。有紗は私のためにアルバムを作ってくれたようだ。お母さんが掲げたアルバムには私と有紗の写真がいっぱい貼ってある。そして、ちゃんと有紗のコメントや日付まで丁寧に書いてある。また、涙が出てきた。
涙をぬぐっているとお母さんはアルバムを遺影の前に置き、
「ごめんね、菜月、ご飯冷めちゃうね。後でアルバム見ようね。」
そう言ってキッチンに戻っていった。
「有紗…。」
有紗と過ごした思い出が蘇る。
「健太だけでなく有紗にも感謝を伝えないと!」
そう思い、一旦部屋に戻った。
「んーーー!」
地上、いわゆるこの世にいられるのは24日まで。今日は18日だ。時間はありそうでない。まずは健太の誕生日。健太の誕生日は25日。その日にはいられないからそれまでに何かを用意して健太を喜ばせなくてはならない。自分が関わらずに喜ばせるのは難しい。それに私からのプレゼントって気がついて欲しい。生きていれば簡単だけど死んでしまっている以上、普通にプレゼントを渡すことができない。それに健太は誕生日が近いから考えやすいが有紗に関して言えば誕生日は近くない。プレゼントや感謝の伝え方が難しい。時間がないのに思い切り行き詰まってしまった。うんうん言いながら考えていると1階からお母さんの声がした。
階段を降りて和室を覗くとお母さんは有紗が持ってきたアルバムを見ていた。
「わぁー、この時の菜月可愛いねぇ。」
お母さんはテンションが高い。お母さんは私が死んだことを受け入れ切れてないのかもしれない。
「菜月、このアルバムすごいでしょ?有紗ちゃんは日記をつけていて、それをもとにコメントをつけたみたいよ。」
私もお母さんの後ろからアルバムを覗き込んでみる。改めて見ると写真も丸やハートといろんな形に切ってあるし、レイアウトの仕方も凄くセンスがいい。コメントの付け方もさすがだ。しかも意外とページ数があって厚い。これをこの短期間で作ったとは…。お母さんは1ページ、1ページゆっくりと私に話しかけながらアルバムを見ていた。私もそれを見ながら有紗と過ごした日々を思い出していた。
アルバムを見終わった頃にはすっかり外は暗くなっていた。
「あら…もうこんな時間ね。」
そう言って母親は夕食の準備に取り掛かる。私は一旦部屋に戻ることにした。再びどうやってみんなにプレゼントや感謝を伝えるのかを考える。健太や有紗だけでなく母親にも何かしたい。それには日数が少ない…。
「健太にはプレゼントだけどどう渡すかだし…。有紗は…あ!」
突然閃いた。有紗は日記をもとに私へのアルバムを作ったと言っていた。私も今までの出来事を日記として書いてその中にみんなへの感謝の言葉を入れればいいのだ!そうすれば感謝を伝えられる!そうと決めたら日記を買いに行かねば!家を飛び出して、お店へ向かう。近所の小さな文房具屋。ドアに手をかけたとき店の中から人が出てきた。ぶつかる!と思って必死に避けた。
「もう!危ないなぁ…あ!」
そのとき自分が霊であることを思い出した。それと同時に買い物ができないことに気が付く。さすがにお店のものを盗むわけにもいかない。それでは犯罪だ。
(せっかくいい案思いついたのに…)
しょんぼりしながら家に戻った。買い物にも行けないなんて…。絶望的な気分になり、ベッドに飛び込んだ。
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