12月20日(水) 菜月

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12月20日(水) 菜月

7時ごろまぶしくて目が覚めた。 1週間この世に止まれると言われても霊だから思ったより何もできない。有紗の誕生日やお母さんの誕生日のためにケーキでも予約しようと思ったが予約したところでお金が払えないことに気がつく。難しすぎる…。 でも、昨日お母さんのいるリビングで一緒に過ごした時、お母さんは私に話かけたりしてくれて幸せだった。お母さんも私を感じてくれていたら嬉しい。よし、私は霊だから気付いてもらえないだろうけど会いたい人に会おう。そう決めて家を出た。   有紗の家に着いた。悪いとは思うけど玄関をすり抜けて家に入る。そして、階段を登って部屋の前にたどり着いた。ドアノブに手をかけてゆっくりと開ける。隙間から中を覗くといないようだ。どこに行っているのだろうか。少し考えて、今日が平日であるということに気がつく。 「みんな学校か…。」 当たり前だが、私がいなくても世界は普通に回る。もちろん学校だって普通にあるのだ。仕方ないので学校まで歩いて行くことにした。学校まで歩く道のりの間に見える街並みも私が生きていた頃と何一つ変わらない。仕方ないことだけれどなんだか寂しい気もする。 だらだらと1時間近く歩いて学校まで来た。今は14時。5限目が終わった頃だろうか。教室に向かうと授業を終えたクラスメイトが教室から出てきた。当たり前だけどみんな私には気がつかない。静かに教室に入った。よかった、私の席がまだあった。後ろの席に座った有紗は窓の方を見つめている。なんだか悲しそうな顔をしている。胸が苦しくなる。そんな有紗の元にクラスメイト何人かが駆け寄った。 「有紗ちゃん。次は生物室に移動だよ?一緒に行こう?」 「うん…ありがとう…。」 そう言って有紗は立ち上がる。生物室に行く途中も授業中も有紗はずっと暗い顔をしていた。 「中村さん、この答えは?」 先生が有紗を当てる。 「…すみません、わかりません…。」 有紗が答えられないなんて珍しい。 「中村さん、大丈夫?」 先生は心配そうに尋ねる。 「…。」 「有紗…。」 自分のせいで有紗がここまでになってしまうなんて…。有紗に対して申し訳ない気持ちで一杯になる。どうにかして有紗に元気になってもらいたい。私が近くにいることを伝えたい。有紗にどうにかしていつもの有紗に戻ってもらう方法を考えていた。そうこうしているうちに授業が終わった。皆が生物室から出て行く。生物室に誰もいなくなり、私も家に帰ろうかと思ったその時。 「石崎さん。」 急に名前を呼ばれた。思わず振り返ると生物準備室に戻ったはずの先生が生物室に戻って来ていた。 「はい。」 「あなた、まだこの世に留まっていたの?」 「え?」 そこでやっと気がつく。先生には霊が見えている!?自分の存在に気がついていることにびっくりしている私に先生は続ける。 「霊の生活はどう?石崎さんは良い子だから不便よね?私の弟は見えないのをいいことにスーパーからお菓子とか持ってきちゃう子で最悪だったわ。私に声かけられたことにびっくりしているってことは他に誰にも話しかけられたことがなかったのね。この世にいても霊じゃ何もできないから困るでしょ?ほかに助けてもらえる人がいないのなら手伝えることが有れば私が手伝うわ。よかったら声かけて。」 そう言って先生は生物準備室に戻って行った。 「‥‥。」 たしかに天の番人は霊感がある奴もいるって言ってたけどそれは勝手に「なんかいる気がする…。」くらいだと思っていた。しっかり見える人もいることを知った。さて、有紗をどう元気付け、感謝の思いを伝えようか?そう考えながら学校を出た。   家につくとリビングでお母さんは珍しくセミロングの髪の毛を一つにまとめて立っていた。手にはごみ袋を持っている。掃除でもするのだろうか…。ここ最近はお母さんにしては珍しくご飯はスーパーのお惣菜やコンビニのお弁当だったようでごみが散乱していたのだ。昨日お母さんに寄り添う時間を作ると決めたものの、部屋に散乱しているごみを片付けるお母さんを見るのは辛い。それに手伝ってあげることもできない。申し訳ないけれど一旦、自分の部屋に戻ることにした。部屋に入ると学校であったことを思い出す。今日は進展があったのだ。生物の松本先生が助けてくれると言ってくれたのだ。つまり必要なものが有れば買いに行ってもらえるということである。ただ、先生は生物の授業でしか関わりがないため、頼みにくいが…。とりあえず、健太の誕生日ケーキを注文してもらおうか?いや、怪しい。わたしからケーキ届いたらなんで?ってなるだろう。しかもここらへんにデリバリーまでしてくれるケーキ屋さんなんてない。でも健太にケーキを届けてあげたいなぁ。考えれば考えるほど難しい…霊としてこの世でやり残したことをやりきるだなんて今までに亡くなった人は達成出来ているのだろうか。
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