12月23日(土) 菜月

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12月23日(土) 菜月

カーテンの隙間からの日の光で目が覚める。ここで過ごせるのもあと2日だ。とりあえず、日記とクリスマスカードはできた。日記は25日になる直前、戻る前に私の部屋の目につきやすい場所に置いておくことにする。ポストカードは24日の夜、ポストに入れよう。あとは、健太の誕生日プレゼント…。まだ何も準備していない…。健太へのプレゼントがクリスマスカードだけになってしまう。別でバースデーカードも作ろうと思ったがそれだけではなんだか寂しい。部屋を探しても使えそうなのはバレンタインデーの時のラッピングバックのあまりくらい。私の部屋にはお菓子のあまりもない。やっぱり、生物の先生にお願いするべきか…。とりあえず、はがきの余りを使って健太のバースデーカードを作成した。健太はバースデーパーティーを楽しんでいたもののいつも誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを一緒にされることを悲しんでいた。そして、健太はホワイトクリスマスになることを毎年楽しみにしていた。今回私がバースデーカードとクリスマスカードの2つを書いたことで喜んでくれるだろうか?そうだと嬉しい。昨日あんな話を聞いてしまったからなんて書くか少し悩んだが少し自分の気持ちに素直に、でもできるだけ自然に書くことにした。プレゼントはメッセージカードだけれど別々に用意できた。でも、ホワイトクリスマスは…。これに関しては生きてたとしてもさすがに無理があるだろう。そもそも、ここは温暖な気候もあって雪が滅多に降らない。稀にしか降らない雪がクリスマスに降るなんてよほどの強運じゃ無いと無理だ。そうすると雪の降る地域に連れて行くしかなくなるが死んだ今それすら無理だ。 「ほんと生きてるって大事だわ。」 今更当たり前な後悔をする。私は高校生で死んだんだ。皆があの世に来る頃まで私は何年待てばいいんだか…。  時計を見るとお昼過ぎ。学校もお休みなので今日は健太の家に行くことにした。健太の家へは5分ほどで着く。家に着き、申し訳ないが玄関の扉を通り抜けた。そのまま2階の健太の部屋へ向かう。ドアをすり抜けると健太はいた。机に座って、窓の外の景色をぼんやり眺めていた。 「‥‥。」 改めて健太の横顔を眺める。やっぱり健太が好きだ。なぜかはわからない。友達が本当に少ないし、浮いてるけれどなぜか好きだ。昨日達也の言葉に対する健太の返事は聞けなかったけれど健太も同じ気持ちだと信じている。そっと健太の部屋を出てそのまま学校に向かうことにした。   学校に着くと生物準備室に向かう。私は全然真面目じゃなかったから生物準備室なんて来たことなかったなぁ。そんなことを思いながら、ドアの前に来た。ノックしようとして迷う。これでノックしてドアを開けて入って松本先生だけならいいけれど他の生徒や先生がいたら?騒ぎになるだろう。かと言ってなにも言わずに入ったら先生に失礼かな?そんなことを迷っているうちにドアが空いた。 「石崎さん…。」 ドアの目の前にいた私に少しびっくりしながらも声は静かだ。先生は振り返って準備室の中を確認する。 「こっち来て。」 準備室には他の先生もいたのだろう。そう言って生物室に連れて行かれた。 「どうしたの?」 先生に聞かれる。私は25日に誕生日の幼なじみにプレゼントをあげたい旨を伝え、お金を渡し、代わりに買いに行ってもらえないかお願いした。 「なるほど…、でも、相手が高校生なのにお菓子の詰め合わせでいいの?」 先生はびっくりしてそう尋ねる。そこで本当は買いたいケーキの相談をしてみた。健太が小学生の頃、冬でお腹を壊すといけないからと買ってもらえないと嘆いていたアイスケーキ。でも、アイスケーキは予約が必要だし、取りに行かなくてはならない。お菓子セットは部屋に健太へって書いて置いておいて母親に届けてもらうか、自分でポストに入れるかできるがケーキは取りに行けない。そのことを話した。先生は真剣に聞いてくれた。 「あなたの部屋に突然今までなかったお菓子セットがあったらお母さん怖いだろうし、かといって突然食べ物がポストに入っていたら相手も怖いだろうし、食べるのをためらうと思うわよ。」 私の話を聞いた先生はそう答えた。 「そうですよね…。」 私は少し落ち込む。 「じゃあ、私が夢で石崎さんに会ってその時に健太くんにケーキを渡せないのを後悔してたから買ってきたって渡しに行こうか?なんで私が!?ってなるかもだけれど。」 そう提案してくれた。 少々強引な気もするが他に方法が思いつかなかったため先生の案に乗ることにした。 「お願いします!あと、来年の親友と母親の誕生日ケーキもお願いしていいですか!?」 そう言って有紗と母親の誕生日ケーキもお願いさせてもらった。先生は快く引き受けてくれた。メッセージカードを作ったことやみんなに感謝の気持ちを綴った日記も書いたことを告げると、ポストカードは今日か明日に出すこと、日記は自分の部屋の机の横かどっかに落としておいて見つけてもらえるようにした方がいいことをアドバイスしてくれた。ポストカードは一度郵便局を経由することで郵便局員が気を利かしてクリスマスまで保存してから届けてくれたと思ってもらえる可能性もあるから自分で直接家のポストに入れるより自然ということらしい。日記に関してはたしかに亡くなった娘の部屋の今までなかったところに突然ものが置いてあるのは怖いだろう。でも、机の横なら今まで気がつかなかっただけだと思ってもらえそうだ。お礼を言って先生の提案を受け入れることにした。そのあと、ケーキを選び、先生にお金を渡して生物室を後にした。 家について自分の部屋に入る。先生、さすがだ。夢に出て来たことにするって…なかなかな案だ。私と先生はそこまで関わりないがそれでもケーキを届ける口実にはなる。それに先生は有紗とは生物の授業で少し関わる程度だし、健太と母親に至っては全く関わりがない。でも、私は健太や有紗、母親が好きなケーキを選んだ。だから、本当に私からだって3人が思ってくれるはずだ。あとは、日記を机の横あたりに落としておく。そして、明日の朝ポストカードをポストに入れる。これで完璧だ。お母さんは今でも2.3日に1回は私の部屋に来て、私の棚に飾ってあるグッズやベッドのぬいぐるみを優しい顔でみている。その顔は微笑んでいるような、悲しんでいるようななんとも言えない顔だ。明日の夜戻る直前にノートを置いていけば2.3日で見つけてもらえるのではなかろうか。準備が完璧に整ったことを確認すると、母親との時を過ごしにリビングに向かった。
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